第五章
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考えての気遣いであった。
「何処へ行っても」
「はい。ではこれで」
そこまで言うともう立ち去ろうとした。
「さようなら」
「あっ、待ってくれ」
だが司祭はその彼を呼び止めた。そうして彼に金を渡そうとする。
「少しだが。旅の金に使ってくれ」
「司祭様・・・・・・」
「よかったらだ。私からのせめてもの気持ちだと思ってくれ」
そう言って彼に渡すのだった。彼の心を。
「それでいいね」
「宜しいのですね?」
「うん、いい」
はっきりと告げた。
「私の気持ちだから」
「わかりました。御気持ちでしたら」
彼も受け取るのであった。これは司祭が完全に好意で言っているとわかっているからである。そうでなければ受け取らないつもりであったのだ。
その金を受け取った。そのうえでまた言う。
「有り難うございました」
「では元気でね」
「はい、司祭様も」
「私はこの街に残るよ」
「そうなのですか」
「これからどうなるかわからないが」
街を見回す。街は機能のことが嘘のように静まり返っている。彼はそのことを内心悲しく思っていたのだがそれは口には出さずにまた少年に言うのであった。
「そうさせてもらうよ」
「わかりました。それではまた」
「機会があればまた会おう」
「はい」
こうして少年は街を後にした。その後彼が何処に行ったのかは誰も知らない。噂ではパリに行きそこで多くの人達を助けたという。司祭はそれを聞いて嬉しく思っていた。誰もいなくなり疫病に喘ぐ街の中にあって。そのことにせめての慰めを見出していたのであった。
群衆 完
2008・1・23
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