アリシゼーション編
episode1 隠された真実3
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……絶句、という言葉の意味を、俺は改めて思い知った。深く傷ついており精神的に不安定になっている牡丹さんの前で絶句するのは彼女の不安を増長させてしまうだろうという自覚はあったが、体が……口が動いてくれなかった。
ただ。
「……怒って、おられますよね」
「……」
「当然です。……すべてお話しした後、いかなる処分も処罰もお受けする所存です。命を絶てと言われれば喜んで従います」
「……いえ」
「……本当に、申し訳ありません」
その「絶句」の意味するのは。
「……なんていうか、言葉になりません。……すみません」
「……そうですか」
それは俺の知るどんな言葉でも表せなかったし、きっと俺が世界中の言葉を知っていたとしてもやっぱり正確に言い表すことはできなかっただろうものだった。ただそれが、牡丹さんが言うような、単なる怒りの感情でないことは、確かだ。
―――ソラが、生きている。
呆然となったが、言うまでもなくうれしかった。
しかしそれと同時に、俺は言いようのない昏い淀みようなものを感じた。
(……それも、そうか……)
それに無理矢理名前を付けるなら……「後ろめたさ」というがもっとも近いかもしれない。彼女が生きているとはいえ、彼女の危機に駆けつけられなかった……駆けつけてやれなかったことに対する、後ろめたさ。彼女が生きているとはいえ、俺が彼女を助けてやれなかった、……彼女の伸ばした手を掴めなかったということには微塵も変わりはないという、後ろめたさ。
そして。
(……アイツに、勝てなかった)
今も悪夢に見る……粘つくような、吐き気を催すような殺意。
目を閉じれば瞼の裏にくっきりと浮かぶ、無力を嘲笑う殺人鬼の視線。
(……今は、よそう)
ぐらりとブラックアウトしかけた思考を、無理矢理に断ち切る。それは、今考えることではない。必要に迫られたときに考えればいい話題であり、さらに言うなら考えたってどうにかなるような内容でもないのだ。
今、最初に考えるべきは。
「それで……ソラに、なにがあったんです?」
それは間違いなく、牡丹さんの呼んだ、その名前のことなのだから。
◆
ソラという女性のことを、俺は実のところ詳しくは知らない。その性格や人となりといった点で言うのならば俺は誰よりも彼女のことを知っている自信があったが、彼女の体の事や生い立ちといったものに関しては何も知らないと言っていいだろう。
何しろ俺は、彼女の本当の名前さえ知らないのだ。
俺が知っているのは、彼女が自分から話してくれたことのみ。彼女が体を……特に心臓を病んでおり、幼いころから病院暮らしだったこと。結果満足な運動もできず、
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