第三章
[2/2]
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
言ってきた。
「何があっても」
「頼む。君がいてくれるだけで非常に有り難い」
司祭は彼にも声をかけるのであった。
「だから。本当に頼むよ」
「わかりました」
彼等の誓いはささやかであったがしっかりとしたものであった。そのしっかりとした誓いはそのまま彼等の胸に残った。それから暫くはこれといって騒ぎもなく老人達も静かに暮らしていた。だがある日街に大雨が降った。
「珍しいな」
司祭は教会の窓からその激しい雨を見て呟いていた。
「ここまで激しい雨が降るとはな」
「最近あまり降っていませんでしたし」
彼の助手を務める若い修道僧が彼に言ってきた。
「それを考えるとこれは恵みの雨ではないでしょうか」
「恵みのか」
「はい、かつてマナを降らせ給うたように」
ここで聖書の言葉が出た。
「この雨もまた」
「そうだな」
司祭はその若い助手の言葉を受けて微笑むのであった。
「水がなければ作物も育たぬし」
「我々の飲む水もありません」
「それを考えれば恵みだな、確かに」
「これこそ神の御業です」
こうも言うのであった。
「ですから。素直に喜びましょう」
「わかった。では今日は静かに聖書を読むとするか」
「ええ。それでは」
修道僧は司祭の言葉を受けて微笑んできた。
「そのように」
「うむ。それではな」
彼等は静かに雨の中を過ごしていた。やがて雨も止みまた太陽が顔を出すようになった。するとここで異変が起こるのであった。
疫病がさらに広まったのだ。まさに街全体に。倒れ伏しそのまま事切れる者が次々に現われ街は地獄絵図となった。老人はすぐに少年を連れて彼等の治療にあたったがここでまたおかしな噂が何処からか出て来たのであった。
「あの爺のせいだ!」
「あいつが疫病を流行らせたんだ!」
そう言い出す者達が出て来ていたのだ。
「俺は見たんだ!あいつが井戸に毒を流すのを!」
「何っ!?」
井戸に毒を流したという噂に多くの者が反応した。
「雨の日にあいつが一人外に出て!毒を入れていたんだ!」
「それは本当か!?」
「ああ、本当だ!」
噂話の常で根拠なくこう言われるのであった。
「井戸だけじゃない!川だって!」
「川にもか!」
「俺達だけじゃなくて農作物にも何かしようとしていたんだ!俺は見たんだ!」
「おい、それだと大変だぞ!」
「そうだ!」
話はさらに大きくなってきていた。まるで燎原の炎の如く。
「あの爺はやっぱり魔術師だったんだ!」
「悪魔だったんだ!」
こういうことになってしまった。
「殺せ!殺すんだ!」
「さもないと俺達が!」
話がまたこうした流れになってしまった。司祭はそれを聞いて慌てて老人の家に向かう。家にいるのは彼だけで少年の姿は見当たらなかった。
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ