参ノ巻
死んでたまるかぁ!
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「まァな」
聞いてくれるなと戯けて惟伎高は笑う。寂しい人ねとあたしもノって笑う。
「ねぇ、なんて呼んだ方がいいかしら。庵儒?惟伎高?」
「惟伎高で良いよ。最早庵儒の方が慣れているから、珍しくて逆に小気味が良い」
「じゃあ、惟伎高。あたし何にも持ってないんだけどさ。命助けて貰った恩がある訳だし、ちょっとの間ここに置いて貰えないかなー・・・って。雑巾がけでも箒掃除でも何でもするし。尼寺はその後にする」
「ああ、いいぞ」
「えっ、いいの?」
アッサリ許可が出てあたしの方が驚く。しかし惟伎高はケロリとしたものである。
「ん?いいったらいいぞ?なにせ今石山寺は俺一人だからなァ。この広い寺を掃除してくれるなんて願ったり叶ったりだ」
「ひ、ひとりィ!?そんなことある!?石山寺って言ったらそこそこ有名よね!?参拝客は!?」
「ウチの座主は変わったヤツでなァ。すぐにふらふらどっかいっちまうし、人嫌いだ。故に今は俺一人。石山寺が賑わっていたのも過去のことで、今じゃ大和国の霊験灼かなナントカ寺ってとこにみぃーんな人をとられてな。残念ながら数えるほどしか人も来ん」
座主とはつまり石山寺で一番偉い人のことだ。
あたしも寺には興味ない方だけど、そんなあたしですら聞いたことのあるかの有名な石山寺がそんなことになっていたなんて・・・驚きで口がふさがらない。と同時に、あたしとんでもないこと言い出したんじゃないかと、一瞬後悔が・・・。
「衣は尼の衣が何着か揃ってるはずだからそれを使え。おまえの着てた寝間着は酷い有様だったから悪いとは思ったが捨てた。まァ本当に尼になるつもりなら、これもいい鍛錬だと思って励めよ」
いや大変そうってことは、考え方を変えれば役に立てるってことで、あたしは惟伎高が居なかったら死んでいたと思うし、その恩を掃除ごときで返せるなら安いもの・・・。とそこまで思ってふと気がついた。なんだか今、不穏な単語を聞いたような?
「・・・ねぇ、寝間着捨てたって・・・」
「ああ。やっぱり、不味かったか?」
「ううん。別に捨ててくれて一向に構わないんだけど・・・今、石山寺にはあんた一人しかいないのよね?」
「ああ、そうだが?」
「で、あたしは血で塗れた寝間着を着替えて、新しいものを着てここに居る訳ですが」
「ああ、間違ってねェな」
「誰が着替えさせてくれたのかしら?あたしが無意識に自分で?それとも・・・」
「俺に決まってるだァろ」
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