参ノ巻
死んでたまるかぁ!
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ない。つまり周りを警戒しているってことだ。あああたしはなんて安易に・・・口は災いの元という先人の言葉をもっと理解しておけば良かったと後悔しても後の祭りだ。
思わず胸元に手を遣るが、そこにあったはずの懐刀の感触は無かった。川に落ちた時に流されてしまったか、この惟伎高が持っているのか・・・。どちらにしろ、絶体絶命!?
「あっはっは!ピィは賢いなァ!いかにも!某が佐々勇士惟伎高である!」
しかし激しい重圧は惟伎高の笑い声で嘘のように吹き飛んだ。惟伎高は元の優しい顔に戻っている。どうやら敵認定はされなかったようだ。あたしはほっと肩の力を抜いた。けれど、さっきの一瞬で背に噴き出した脂汗の感覚は、蛞蝓の這いずり回った跡のように、気持ち悪い余韻を残していた。
「ピィって何?」
「昔おまえのような雛鳥を拾ってなァ」
ひ、雛鳥と同類ね・・・まぁいいけども。
「そんなに俺は有名か?」
「まぁね。風の噂で、石山寺に佐々の惟伎高って奴がいるって聞いていたから」
あたしは注意深く、言葉を選びながら言った。いつだったか由良がぽろりと言っていたのだ。佐々の次期当主は高彬か惟伎高だと。その時はへーそんな人が居るんだ、で流していたが、人生何があるかわからない。まさか実際に会うことがあるなんて思ってもみなかった。そして側室の子が僧侶になってるって言うどーでもいい佐々家の内情が世間にも漏れ出ているかはさっぱり知らないが、あたしの身を明かしていない以上、風の噂で皆知ってるってことにさせて貰う。それくらいなら漏洩してても不思議はないはず。
でもあたしが気づいた極めつけは・・・やっぱ似てるのよ。高彬に。顔は惟伎高のが男前だし、体つきだって惟伎高のがしっかりしているし、背だって高い。でもやっぱり、異腹とはいえ父は同じ。言葉にできないけれど、瞬間瞬間の雰囲気がどことなく高彬を彷彿とさせるのだ。
「惟伎高とはこれまた久しぶりにまともに呼ばれたな」
「家族はここに来ないの?」
どきどきしながら聞いた。ここ大事。これから尼になるにしても、ならないにしても、命助けて貰った恩ぐらい返してから出て行くつもり。・・・だけど、もし頻繁に佐々家と交流があるのなら、あたしはそんなこと関係なくすぐにでもここを立たなければならない。できれば、そんな不義理はしたくない。しかしあたしの心配を余所に惟伎高はアッサリと言った。
「家族なンぞ来ねェよ。仲良しこよしやる年齢でもねェしな?」
「あ、あらそう。やっぱりお坊さんになったら俗世とは切り離されて生活するものかしら」
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