参ノ巻
死んでたまるかぁ!
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はぽかんとしたけれど、いつまでも阿呆のように口を開けてばかりも居られない。つまり、この男・・・あたしが自殺しようとしたと思ってる訳ね。
そういうわけじゃないけれど、説明するのも面倒だしとりあえず頷いておく。しかし男はにやりと口角をあげた。
「ふン?入水じゃねェってか?傷はなかったから・・・毒か」
ちょ、ちょ、なんでわかるのよ!あたし頷いたわよね?
「誰かに殺されそうにでもなったか?」
畳み掛けられて、あたしの目は相当に泳いでいたのだろう。男はぽんと優しい仕草であたしの頭を合図のように叩くと手を離し、盆の上の器を差し出した。
「ほら、食え。おまえ、自分がどれぐらい眠っていたか、わかってないだァろ?このまま死ぬんじゃねぇかと何度思ったことか。いつも赤粥で飽きたかもしれんが、生憎とこんなモンしかなくてェな。文句言わず食えよ」
「文句なんて言わないけど・・・いつもって・・・飽きたって・・・?」
いつもも飽きたも、ここでごはんを頂くのは初めてだと思うのですけど・・・?だってたった今起きたし。男が前田家で暮らしてる時の知り合いだったとか言うわけでもないし。あたし普段赤粥三昧で飽きたーとか寝言言ってたのかしら・・・?別にいつもだって飽きるほど貪り食べてはないんだけど・・・。
あたしの合点のいかない顔を見て、男は声を出して笑い始めた。
「あっはっは。おまえ、覚えてないんだろう。死にかけていたから無理もないが、数日前から、自分でメシぁ食ってたァぞ」
「嘘!?」
うっそでしょ!?もーやだ恥ずかしいったらありゃしない!毒湯を飲んで、体中の血を絞り出すかと思ったぐらい吐いたのは事実なので、そりゃあ死にかけていたことに間違いは無い。故に無意識下で生きるために食べ物を欲していただろうと言うことも間違いないのだろう。それにしたって・・・自分の覚えていない時の行動を他人に指摘されることほど恥ずかしいことはない。
「忘れて!」
「お、強気だァな?その前は俺が食わせて遣ってたんだァぞ?」
「えぇ!?」
遂にあたしは頭まで布団に潜り込んだ。記憶が無いとは言え、鳥の雛宜しく、ぴよぴよとこの男に餌付けされていたんだと思うと、顔から火が出るほどの恥ずかしさだ。もーお嫁に行けない〜と思って、ふと、あたしはもう二度と高彬に会えないことを思い出してしまった。そうすれば、もう暢気に男とじゃれていられる気分でもない。
「お?」
あたしはのそりと起き上がると、男に向かって手を出した。
「・・・食べるわ」
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