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菊と薔薇
8部分:第八章
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第八章

 戦いは終わった。その倫敦の空爆から長い時を経て。そのうえで遂に終わったのだった。
 日本は敗れ英吉利は勝った。それは事実だった。しかしどちらもその傷は深く痛々しいものだった。それでも戦争が終わったことは事実だった。
 その戦争が終わって暫く経ってから朱雀はある場所にいた。そこは横浜だった。その中の野原の一つに今立っているのだった。
 服はもんぺではなくなったがそれでも質素なものだった。敗れた日本には華やかなものを着ることなぞできなくなってしまっていたのだ。
 その後ろにあの執事が立っていた。彼はそこから彼女に声をかけてきた。
「奥様」
「はい」
「英吉利からの船が来たそうです」
「遂にですか」
「そうです。遂に」
 朱雀は後ろから執事のその言葉を聞いて頷いた。
「遂に来られたのですね」
「はい、そうです」
 執事はまた朱雀に対して答えた。
「戦争が終わりようやく」
「そうです。長い戦争でした」
 戦争のことにも思いを寄せるのだった。
「我が国は多くのものをなくしました」
「はい」
 とりわけ敗戦によってだ。日本はかなりのものを失った。それは人命だけではなかった。それだけに済まなかったのがこの戦争だったのだ。
「そして英吉利もです」
「英吉利もですか」
「そうです。勝利したとはいえ」
 実際に英吉利もこの戦争で失ったものはかなりのものがあった。多くの犠牲を払っただけでなく勝利とひきかえに多くのものを失ってしまったのだ。
「失ったものもまた」
「勝利したといえどもですか」
「ですが」
 しかしと言うのだった。
「それでもです。失くしていないものもまたあります」
「失くしていないものもですか」
「それがこれです」
 言いながら視線を下にやる。するとそこには薔薇と菊があった。その二つが今咲き誇っていたのだ。朱雀の足元一面にである。
「この花達です。そして」
「そして?」
「私達の絆も」
 今度は顔を上にやった。
「絆もです。それもまたなのです」
「絆ですか」
「絆は消えません」
 朱雀はまた言った。
「簡単には。さあ」
 ここで声が弾んだ。
「来られました、今ここに」
「おお、あれは」
 朱雀は前を見て言った。執事もそれに続いて前を見る。するとそこから白い服を来た気品のある老婆が来ていた。朱雀とはまた違った気品を見せて。
「まさしく。年月こそ経っていますが」
「そうです。年月が経ち戦争で多くのものを失っても」
 朱雀は声に喜びを含んでいた。
「失われていないものがあります。それが絆です」
「そうですね。それだけは」
「朱雀様」
 顔まではっきり見えるようになってそこでアンが声をかけてきた。
「お久しゅうございます」
「はい、アン様」
 朱雀も
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