その手に宿る調律。
時夜、四歳の一時
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何も存在しない虚空に翳す。
そうして心を具現化、結晶化する様な確固たる意識を手先へと向ける。
俺は瞳を閉ざしたまま、虚空よりその“柄を掴む”。
そうして門を抜ける様に、一気に手繰り寄せる。
「……出来たか」
ここまでの一連の動作に、約二秒と言った所。
赤子の時より、瞑想する鍛錬は欠かせた事はなかった。
左手に軽く、だがしかし確かな重みが存在する。
視線をそこに移す。何も持っていなかった左手には、一本の陽の光を纏う長刀が握られていた。
今の自身の背丈よりも遥かに長い、刀身2m程の刀。陽を纏うその刀は、日陰を掻き消す程に光を放っている。
羽根の様な軽さなので、難なく今の俺でも持つ事が出来る。
俺が生まれながらに持つ異能、神器“心剣創造”。
俺自身の感情を媒介にして創り出す事の出来る心剣。これは喜の感情を媒介にしたものだ。
人間の持つ六情、喜・怒・哀・楽・愛・憎。
それらの六相を基盤とする感情の刀剣を生み出す能力。
今現在創り出せる感情武装は喜、そして楽の二本だけだ。
「二本とも、能力的にサポート系だしなぁ。どうも攻撃系統には向かないな」
戦い方にもよるが、いまいち決定打に欠ける事だろう。
まだ力を使いこなせていないという現状。
そして、その切れ味も今の俺では切り落とすと言うよりも、擦り落すと言った方が正しい。
途方も無い鈍らだ。未だに、残りの四本は未だ覚醒の兆しはない。
それに一つの感情を出している間は、他の感情を引き出す事ができない。
今はまだ、只々修行不足という事だろう。
それを痛い程に痛感する。
幼き頃より行っているが、一長一短ではどうにも出来ないという事だろう。
「…そろそろ“時間”か」
遥か後方を見据える。そうして、これから起こる事象を解っているかの様に、言葉を呟く。
それと同時、具現化した感情武装が光に解け、そうして心の内へと戻る。
少年の瞳が光の加減なのか、一瞬水鏡色に染まって見えた。
2
「…時夜様、こちらでしたか」
「綺羅お姉ちゃん、おはよう」
小気味よく、地に生える草木を踏む音が聞こえてくる。
刹那、俺が辿ってきた道から特徴的な犬耳を生やした銀髪の少女が姿を現した。
数瞬前に俺が見たビジョン。
俺が見た“未来の光景と同じ展開”がそこには広がっていた。
―――『天球図画』
脳に大小なりとも負荷を与える代償に、僅か先の事象を映像化して視る事を可能とする力。
母親である時深の持つ“時見の目”の劣化互換と言ってもいい。
「はい、おはようございます時夜様。さぁ、朝ご飯の時間ですよ。散歩はこれまでです」
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