決戦5
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ラインハルトだけが、それを理解している。
そして、敗北も。
予想外の反撃に時間を取られ過ぎた。
もはや勝つことはない。
自分の策で負けたわけではないが、それでも初めての敗北にラインハルトは小さく唇を噛んだ。
「もはや勝てない。部隊を再編させて逃げるしかない」
「そんなわけがない!」
声と共にブラスターの光が走った。
だが、それは先ほどまでの精密さとは打って変わり、子供が乱射しているようなものだ。
ラインハルトの隠れた岩場に到達することもなく、明後日の方へと撃ち続けられている。
「爆撃機一台で何ができる。すぐに対空部隊が撃墜してくれるわ!」
「その対空部隊を満足に展開できなかったのを、忘れているのか」
「うるさい! それに……もう遅い」
「なに?」
「遅いのだ。今更戻って、何と言い訳する。貴様を殺せなかったと報告すれば助けてくれるのか」
「……何とかしてやろう。私が」
ラインハルトの言葉に、響いたのは笑い声だ。
どこか正気を失っている笑い。
「何とかしてやろう。はは、貴様はわかっていない」
怪訝に眉をしかめた前で、岩場の影からヘルダーが姿を現した。
ゆっくりとブラスターを手にして、ラインハルトを睨んでいる。
その状態で隠すことなく、ヘルダーは笑った。
「貴様ごとき若造が何とかできるのであれば、既に何とかなっている。誰も何もできなかった」
小さく首を振って、ヘルダーは唇の端をあげた。
「貴様はわかっていない。貴族の――権力を手に入れた者たちの悪意を」
それは退役近くまで最前線にいた男の痛烈な言葉であったのだろう。
感情と共にぶつけられた言葉に、岩場の影でラインハルトは自嘲めいた笑みを浮かべた。
「わかっていないのは貴様の方だ。ヘルダー」
「……」
「誰も何もできなかった。違うな、何もしなかったの間違いなのだろう」
呟かれた言葉は、カプチェランカの気温よりも冷徹で、冷たい。
「頑張ったけど何もできなかったなど、何もしなかったのと同意義だ。俺が何とかすると言ったのならば、それは絶対だ。口だけの貴様らとは違う」
「ははっ」
ヘルダーの笑いが、小さく雪原に響いた。
それは先ほどまでの正気を失った哄笑とは違う。
単純な、楽しげな笑いだ。
「そうか。ならば、何とかして見せろ。ミューゼル少尉!」
撃ちこんだブラスターの光が、ラインハルトの岩場に押し寄せた。
+ + +
始まった戦闘を見る人影がある。
谷の上からそれを覗き込みながら、静かに通信機を手にする。
「敵の司令官及び士官を発見した。すぐに急行を」
『え。はっ……』
静かに通信をきって、アレス・マクワイルドはゆっくりと雪原から眼下を見る。
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