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乱世の確率事象改変
心知れば迷いて
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ても答えず、不思議そうに私を見ていた彼の膝にポスッと腰を下ろして、強く抱きしめた。
 温もりは変わらない。心臓の音が聞こえるここは私が一番好きな場所。戦で冷えてしまったであろう彼の心を私の体温で少しでも暖められたらいいのに。
 そのまま、彼は何も言わずに私の帽子を寝台に置いて、頭を撫でてくれた。いつものように、優しい手つきで。
 この人はまた多くの命を背負ったんだろう。身体の一部を切り捨てて、その想いを背中に乗せたんだろう。
 私は知っている。副長さんから聞いている。
 毎回、戦が終わると徐晃隊の名簿を見て、死んでいった人たちの事を思い出しているという事。そのまま、きついお酒を天に翳して、想いを連れて行けるようにと副長さんと二人、もしくは徐晃隊の部隊長さん達とで飲み干している事。死んだ徐晃隊員の名前を全部覚えている事。
 彼が想いを向ける先は大きすぎて、多すぎて……それが彼を苦しめて、自分の幸せを考えさせないようにしてるんだろう。人を死なせる事しか出来ない自分が憎くて仕方なくて、自身が幸せになっていいなんて考えようともしないんだろう。
 そんな彼が、どうしようもなく……愛しい。
 胸にこみ上げる気持ちに勝てず、顔を上げると目が合った。吸い込まれそうな黒い瞳に覗きこまれて、私の思考は一つの欲を残して全て止まった。

――――この人が欲しい。

 耳にうるさく響く鼓動はどちらのモノであるのか分からなかった。
 見つめ続ける事幾分……私は自分の欲を我慢する事が出来無かった。
 本能の赴くままにゆっくりと顔を寄せようとして――優しく抱きしめられた。

「雛里には相変わらず敵わないな。いつも支えてくれてありがとう。大丈夫、ちゃんと俺は俺のままだから。死んでいったあいつらの分まで、殺した人の分まで想いを繋ぐから」

 耳に響く低い声を聞いて漸く、私の思考が正常に回り出した。
 私は何をしようとしていた? 彼に何をしようとしていた?
 欲に負けて彼を求めたさっきまでの自分を思い出して、心を砕いている彼に独りよがりを押し付けようとした自分が愚かしすぎて、心が沈んで行く。同時に、彼のくれる温もりが暖かすぎて、私の心は満たされていく。
 胸が苦しい。私はもうこの人から離れられない。ずっと傍にいさせて欲しい。
 でも、伝えるのは今じゃない。いつ誰が死んでしまうか分からないこの乱世で、胸にある想いを伝えられなくなるのは絶対に嫌だけど、朱里ちゃんとも約束をした。だからもう少しだけ……私の欲を抑え付けないと。
 身体を離して、瞳を見つめて……立ち上がってから、

「き、今日は久しぶりに四人で寝ようと話し合ったのですが……どうでしょうか?」

 椅子に座りながら伝えた。すると秋斗さんはいつものように微笑んで口を開く。

「分かった
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