心知れば迷いて
[5/8]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
いるとのこと。
私は詠さんと月ちゃんより先に彼の部屋に入って、二人きりで色んな話をしたくてここに来た。
彼の大切な友達が亡くなったというのに高まる胸は不謹慎でしかない。なのに……私はもう関靖さんがこの世界から居なくなってしまった事に心を傾けられない。脈打つ心臓は彼に会える嬉しさで喚いていた。
自分の疚しさに気付いてしまうとどうしていいか、彼にどんな顔をして会えばいいのか全く分からなくなった。自己嫌悪で身体が震え始めた頃、
「雛里……?」
「あわっ!?」
廊下からの落ち着いた声に飛び上がる。部屋の中にいると思っていたけど、どこかに出かけていたようで振り向くと彼が居た。
私が驚いた様子に笑いを噛みしめて耐えている。恥ずかしさで顔が熱くなり、いつものように帽子を降ろした。
「おかえり。袁術軍に対しての報告は帰ってきた徐晃隊から聞いてるんだが……まあいいや、とりあえず部屋に入るか」
ゆっくりと私の隣まで来た秋斗さんは扉を開けて入っていく。私も倣って部屋の中に続いた。
何を話していいか分からず無言のまま、外套を脱いで畳みながら寝台に腰を下ろす彼を椅子に座ったままで帽子の影から見続ける。その間もずっと私の胸は高く跳ねたままだった。
目が合うと……心臓はさらに跳ね上がった。十日以上会ってないからか、私は目を合わせる事も恥ずかしくなってしまったようだ。慌てて帽子で視線を隠す。
「来てくれたのは白蓮達の事だろう? 月にも言ったけど、まだ実感が持てないみたいでな。今の所は大丈夫だ」
声音を聞くかぎりは問題ないようだった。ほっと胸に安堵が浮かぶ。ゆっくりと帽子を上げて彼を見やると、優しい瞳が迎えてくれた。
変わりなく大好きな秋斗さんのまま。狂気も、絶望も、哀しみも無い。だけど……優しい雰囲気なのに一寸だけ感じが違う。
違和感の原因は分からないけれど、心がくすぐったくなるような感じで、胸がじんわりと暖かくなる。悪いモノでは無いのなら気にする事では無いだろう。
「お辛くなったらなんでも言ってください」
関靖さんと関わりが無かった私には何も共有する事が出来ない。それでも、一人で暗い夜を過ごすよりも何か話す事で気が紛れるならそうして欲しい。
「ありがとな。その時の俺なんか想像も出来ないが……またバカしそうになったらよろしく頼む」
自分自身に呆れているように苦笑した彼は少し目を伏せた。穏やかな沈黙が部屋を包んで、彼は寝台の横の机に置いてあった書簡に軽く目を通し始める。
私は今も彼の支えになれているんだろうか。
きゅうと胸が締め付けられて、抱きつきたい衝動が湧いてしまった。自然と、椅子から立ち上がった脚は彼の方へと向いていた。
「ん? どうした、雛里?」
問いかけられ
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ