心知れば迷いて
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。私は受け止める事しか出来なかった。
彼は……自分を憎んででも皆に生きて欲しいけど殺されてはやらない、なんて事を言う人だ。
私は……それで多くの人が救われるなら死んでもいいと、前までは思っていた。今は違う。この人を支えながら生き抜いて一人でも多くの人を救う手伝いをしたい。そして平穏な世界が見てみたい。
彼は私と似てるけど少し違う人。彼に関わると皆変わっていく。この人が……桃香さんでは無く私と先に会っていたら、なんて考えてしまうのは愚かしい自分の欲だ。
思考を打ち切り、虚空を見つめる秋斗さんを見ると、上手く私への罪悪感を取り払ってくれたようで穏やかな表情をしていた。それを見てほっと一安心してしまうのは私がこの人を少しでも楽にさせてあげられた事が嬉しいから。
そこで一つ、おかしな考えが頭を過ぎる。
私はこの人に自分を重ね過ぎているんじゃないだろうか。この人を楽にさせてあげたいと思うのは、私が楽になりたいからじゃないのだろうか。支えてあげたいと思うのは、先の平穏な世界が見たいからだけなのだろうか。
そうなのかもしれないし、そうでは無いのかもしれない。自分の心なのに考えても分からないのは何故だろう。
「そういえば……憎しみと同じように、人の世なんざ誰かが壊して誰かが作る繰り返しの堂々巡りでしかないなぁ」
また思考に潜っている中、遠い目をして紡がれた言葉に私は呆気に取られる。
奇抜な発想をする人だとは思っていたけど、さすがに平穏な世界を作る事を目指している人の言う事では無い気がして。
「く、繰り返しでしかないのなら……秋斗さんは、一体どんな世界を作ろうと……」
「ん? ああ、無駄な事をしてるって取り違えたか。『今までは』ってのを付け足そう。大陸の歴史でもそうだったろ? だからこれから誰にも壊されない世を一から作り上げるのさ。天下統一なんてのはその為の足がかりで、ほんの通過点に過ぎないんだよ」
再度、私は呆気に取られてしまった。
この人はどこまでもどこまでも先の事を見ている。一度壊して一から作り上げる、そこにはどれだけの時間と労力が必要なのか。一つの街でも大変なのにそれを大陸全体に齎そうなんて……人生の全てを賭けても足りない。彼にとってこの乱世は壊されない平穏の為のただの手段でしか無い。
私が洛陽に行かないでこの時まで立っていたら……先の平穏の為にと同じ選択をしていただろうか。
「まあ、生きている間に出来る事も多寡が知れてるが……朱里や雛里、詠みたいな天才達が乱世に使ってた頭を全て治世に向けたら、作れる気がしてこないか?」
ニッと楽しそうに私に笑顔を向ける。
戦の最中でも次々と仕事をこなして行く彼女達を思うと、私もどこか出来るような気がしてきた。微笑み返してコクリと小さく頷くと彼は目
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