第51話 結局子供は親が好き
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もこの橋田屋を狙って来た卑しい盗人に違いない。耳を貸す義理などない。
そんな時だった。またしても勘七郎が愚図りだしたのだ。何故だ、何故こうも嫌がるのだ。賀兵衛には全く理解出来なかった。
「何故じゃ? 何故ワシでは駄目なのじゃ? そんなに嫌いなのか? 橋田屋が、このワシが―――」
「貴方も勘太郎様のお父上なら分かる筈です。子供にとって、店の地位や名前なんて意味ないんです。大事なのは、自分を愛してくれる親なんです」
「親……じゃと!」
「勘太郎様は、とても寂しそうにしていました。ですが、それと同じ位に、実の父である貴方を愛していたんですよ。父親として―――」
言葉を発した際にお房の目蓋から一筋の滴が零れ落ちた。その滴を見た賀兵衛の脳裏にかつての光景が浮かび上がった。幼くして母を失くした勘太郎。その勘太郎もまた、母と同じで病弱で長く生きられる体ではないと告げられた。
しかし、それでも良い。懸命に生きていて欲しい。のびのびと生きていて欲しい。その為になら慣れない育児でもこなすし家事もこなしてみせよう。
そう、死んだ妻の前で誓ったあの時の記憶が鮮明に賀兵衛の中に蘇ってきたのだ。
「そうじゃった……そうじゃったなぁ。わしは何時しか、勘太郎を狭い檻の中に閉じ込めて、あいつを雁字搦めに縛り上げてしまっていたんじゃな。あいつも、辛い思いをしたんじゃろうなぁ」
今にしてやっと気付いた。自分が本当に大事にしなければいけない物がなんなのか。それは店でもなければ地位でも権力でもない。たった一人の家族だった。だが、気付いた頃には全てが遅すぎた。既に勘太郎は他界し、今はもうこの手に残っている物は何もない。
「全てが遅すぎた。もっと早く気付いていれば。わしは何もかも失う事もなかったのに―――」
「いいえ、貴方は全てを失ってはいませんよ。その証拠に、ほら」
お房の言葉を聞き、賀兵衛は抱いていた勘七郎を見る。勘七郎は全く愚図っていなかった。寧ろ、賀兵衛に向い手を伸ばしている。認めてくれた。自分を家族として、祖父として認めてくれた。
その真実だけが賀兵衛には何よりも嬉しく思えた。
「今度は、橋田屋の主としてではなく、優しいおじいちゃんとして、また入らして下さい」
「あぁ、あぁ……勘七郎を……孫を、頼みましたぞ」
「はい!」
***
時刻は既に夜を迎えていた。今回の一件は無事に解決し、勘七郎も無事にお房の元へと帰る事が出来た。金にはならないかったが、とても後味の良い仕事だったと言える。
「本当に、有り難う御座いました。皆様には何とお礼を言えば良いか?」
「いえ、これが僕達の仕事ですから。それより、頑張って子育てして下さいね」
「丈夫に育つと良いアルネ」
新八と神楽はベンチに座ってのんびり
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