参_冷徹上司
二話
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いつもなら30分か40分は時間をかけて髪型をセットしたりメイクをしたりするが、今日からしばらくはそんなことに構っていられなくなる。
ミヤコはものの10分程度で顔を洗い、寝癖を直し、服を着替えて部屋を出た。
部屋の前では鬼灯が待っていた。
そしてミヤコを一瞥して言う。
「あっ、そうでしたね」
何がそうだったのかさっぱりわからなかった。
ミヤコが首を傾げると、鬼灯は顎に手をやった。
「そのスーツ。それではここで働くのに相応しくない。あれですよ。千尋だってキチンと湯屋の従業員の着物に着替えて働いてたわけですから」
「ちひ・・・・・・千と千尋の神隠しのこと、言ってます?」
「いやあ、人間臭いですねえ」
ミヤコは鬼灯が用意してくれた、女性用の着物に袖を通した。
しかし、普段滅多に着物など着ないので、正しい着方がわからない。
部屋で長いことジタバタしていると、トントンと誰かがドアを叩いた。
それが鬼灯ではないことは確かだった。そんなに優しく叩くはずがない。
「ミヤコさん、衆合地獄に勤めているお香さんをお呼びしました。彼女に着せてもらいなさい」
「しゅうごうじごく?」
ミヤコはいささかよくわからなかったが、そっとドアを開けた。
そこには、色気たっぷりの青い髪の女性が立っていた。
何の種類かわからないが、香水のとてもいい香りが鼻をくすぐる。
「お香さんとわたしは神代からの幼馴染みで、今は衆合地獄で主任補佐をしておられます。お昼休憩中でしたが、訳を話して来ていただきました」
「しゅうごうじごくって何ですか?」
ミヤコが聞くと、お香は口元に微笑をたたえた。
「邪淫罪の地獄よ。女と男のいざこざや、不倫、淫乱な罪人が落ちる地獄」
「へえ、地獄にもいろいろあるんやなあ」
「さっ、わたしが手伝ってあげるから!」
お香はそう言うと、雑に結ばれていたミヤコの着物の帯を解き、スルスルと慣れた手付きで巻き直す。
彼女の帯はこんな布ではなく、二匹の蛇であったことには驚いたが、ただ単に蛇が好きだから、と話してくれた。
「あなた、臨死体験中なんですってね」
「はい。自分でもびっくりですよ、ほんま。鬼灯さんが言うには、現世の自分が元気になれば自然と戻れるって」
「そう。無事に戻れるといいわね」
お香は優しい声でそう言うと、最後にグイッと力強く帯を締めた。
「はい、できたわ」
帯は綺麗に整えられ、丈も丁度いい長さに変えてくれていた。
生地の色は鶯色で少し地味だったが、成人式や大学の卒業式ではあるまいし、とそれはそれでよしとすることにした。
「うわあ、すごい!器用やなあ。ありがとうございます、お、お香さん」
「お安い御用よ」
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