オリジナル/未来パラレル編
第29分節 雨と涙と
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んにシアワセにしてもらって。そこまでしたのに、今度はコウタを忘れて。イヤなのよ、ほんと、キモチワルイのよ」
咲は自分で自分を抱き、紘汰に背中を向けた。両の二の腕に爪が食い込む。
――そうしていると、背後で水を蹴る音がした。
直後。ふわりと。咲は男の逞しい両腕に背中から抱きすくめられていた。
「紘汰、くん」
締めつけるように回った両腕。密着する胸板。息遣い。紘汰の何もかもに鼓動が速くなっていく。
濡れた体が熱を取り戻すほどに高揚する。拒むためのどんなアクションも起こせない。
「だ…め、だよ…コウタ、離し、て」
「やだ」
「ヤダって…! コドモみたいなこと、言わないでよ…っ、ねえ」
「離したらもう二度と触らせてくれなくなるだろ。だったら、やだ」
抱擁はじわじわと強くなっていく。もはや拘束が苦しいのか、紘汰だから苦しいのか、分からない。ただ、熱くて、苦しい。
「っ…お、おねがい…やめて…心臓バクバクしすぎて…死んじゃうよぉ…っ」
咲は懸命に訴えているのに、紘汰はこれっぽっちも聞き届けてくれない。こんなに強引な紘汰は今までになかった。
どうして、と目尻に滲んだ水分は、雨の滴か、それとも。
ヘキサの死を思い出しては錯乱する咲を、医者も匙を投げ、親でさえ見放した。優しすぎる紘汰だけが見捨てなかった。
紘汰は何十度なだめて、抱き締めてくれただろう。――そんな紘汰が、咲は大好きだった。本当に、心から、大好きだった。あるいは、親友であったヘキサより。
「……めん、なさい」
気づけば口から零れた言葉。
「ごめんなさい…っごめんなさい! ごめんなさい、ヘキサ…っ! あたし、今、幸せで…っく、コウタいるから、コウタといられて、うぇっ…幸せ、で……ヘキサいないのに、幸せになってごめんなさいぃ…! うあ、あああああ…っ!! あああん…っ!!」
――咲は泣いた。葬儀でヘキサの遺体を見てさえ泣けなかった室井咲が、初めて流した涙だった。
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