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美しき異形達
第二話 目覚める炎その三

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「あたしは駄目なんだよ」
「育ち盛りなのね」 
 ここでだ、こう言ったのは裕香だった。
「薊ちゃんも」
「ああ、けれどさ」
「けれど?」
「これ昔からなんだよ」
「子供の頃からなの」
「ああ、そうなんだよ」
 その頃からだというのだ、薊の大食は。
「特に白い御飯が好きだよ」
「パンは?」
「パンも好きだよ、けれど一番好きなのは何かって言われたらさ」
「白い御飯なのね」
「それが一番好きだな」94
 日本人にとっての主食であるそれがだというのだ、薊の一番の好物だというのだ。
「幾らでも食えるよ」
「じゃあ丼ものとかは」
「牛丼大好きだよ」
「吉野家も?」
「杉屋もさ」
 そのどちらもだというのだ。
「好きだよ」
「そうなのね、うちの学園中に牛丼屋さんもあるから」
「あっ、じゃあ暇があったらな」
「行く?牛丼屋さん」
「牛丼は最高だよな」
 牛丼についてもだ、こう言う薊だった。
「あれ十杯食ったことがあるよ、特盛でさ」
「いや、十杯はね」
「ちょっとね、それもね」
「しかも特盛って」
 それもだとだ、皆引きつった笑顔で言った。
「凄いわね、それはまた」
「そんなに食べるのね」
「いつも身体動かしてるせいかね」
 だからではないかとだ、薊は自己分析のうえで皆に述べる。
「食わないとさ、本当に」
「身体持たないのね」
「それでなのね」
「そうなんだよ、拳法にモトクロスにさ」
 その二つでだというのだ。
「毎日相当カロリー使ってると思うよ、自分でも」
「そうなのね、確かに身体動かしてる人は食べないとね」
 裕香も薊の言葉を受けて述べる。
「そうしないとよくないから」
「身体動かしたぶんと同じだけ食わないとな」
「ええ、そのことはね」
 その通りだとだ、裕香も言うのだった。
「私もそう思うわ」
「そうだろ、裕香ちゃんわかってるじゃねえか」
「ええ、ただね」
「ただ?」
「それでも相当食べるわね」
 今の弁当よりもだ、牛丼特盛十杯と聞いてのことだ。
「お酒も飲むのよね」
「酒?ああ、この町じゃ未成年でも普通に飲めるんだったよな」
「十五歳以上はね。町の条例で」
 八条町のだ、あくまで例外中の例外である。
「横須賀じゃ違ったわよね」
「おおっぴらにはな」
 飲めなかったというのだ、これは日本なら当然のことだ。あくまで公においては、ではあるが。
「けれどあたしもな」
「飲んでたのね」
「ああ、そうだったんだよ」
「じゃあお酒はどれが好きだったの?」
「何でもだよ」
「何でも?」
「ああ、何でもな」 
 酒ならばとだ、実にあっさりとした返事だった。
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