第一部 vs.まもの!
第1話 かんおけ!
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を掴まれた。御者席から弾き飛ばされる。
頭の真後ろを幌が掠めた。地面に叩きつけられ、体の上にあの騎士が覆いかぶさる。全てがゆっくりになる感覚は、それで終わった。馬たちがいななきながら谷底に落ちていく。ウェルドは顔を上げた。
「いってぇ……」
騎士の青年が体の上からどき、落石の止んだ崖にもたれかかった。二人とも汗にまみれ、息を切らしている。
死ぬところだったのだ。
今更その実感に打たれ、ウェルドは凍りついた。
遅れて笑いが来た。
今生きているという事が、理不尽にして愉快であった。
ウェルドは笑う。青空に、声を上げて笑う。
「……信じられない。なんていう無茶をするんだ、君は!」
「てめぇもな!」
騎士の青年がいきり立つ。ウェルドは笑い止まない。
道の後ろから、馬車に乗り合わせた面々が歩いてくる。それを数える。……十二人。
全員、無事。
ウェルドは笑う。まだ、笑う。
「わ、わ、私たち、助かったんですね?」
一目で聖職者とわかる白いローブの少年が言い、エプロンを着た少女が言葉を継ぐ。
「でも……後続の人たちが……」
狂笑がやむ。
ウェルドは凭れていた崖から背中をはなし、立ち上がった。
「おい、てめえ」
立ち上がってみると、騎士の青年のほうが背が高かった。目線より高い位置にある騎士の目をひたと見据え、真顔で迫る。
「な、何だい――」
「てめえさっき、名前と『あの町』に行く理由を訊いたよな」
「あ、ああ」
「覚えておけ。俺の名はウェルド」
唇の片側だけを吊り上げて笑う。不敵な笑み。白い歯が夏の日差しを受けて光った。
彼は宣言する。
「カルス・バスティードに、俺は、神の不在を証明しに行く!」
※
「今年の新入りが少ない理由はわかった」
二つの矩形の窓が並ぶ部屋。
窓の間にはバイレステ・アスロイト二大国の国旗が掲げられ、床には申し訳ばかりの赤絨毯が敷かれている。
「若い奴しかいねえ理由もな。ここカルス・バスティードへは年の若い奴から順に出発する」
部屋の奥には長机。机上の書類に向かう初老の男を、ウェルドは不機嫌に凝視した。
「で」
灰色の髪。年を経てなお逞しい体。この男は確か、オイゲンと名乗った気がする。この町を管理する人間の一人だ。オイゲン。オイゲンでよかったか? ウェルドは自問する。顔の傷が痛くて話に集中できなかったのだ。道中は極度の興奮で気が付かなかったが、全身打ち身と切り傷だらけだった。骨折がないのは幸いだが。
「馬車の制御を試みたっていうのはあんたかい?」
「見りゃわかるだろ。でなきゃこんな有り様じゃねえぜ」
頬の当て布を傷口に押しつけながら答えた。オイゲンと名乗る男は溜め息をつく。
「無茶しやがる」
「しょうがねえだろ。でなきゃ
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