第一部 vs.まもの!
第1話 かんおけ!
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使いの少年が呟く。
次の瞬間、馬のいななき声が熱く乾いた空気を裂いた。衝撃が幌馬車を襲う。立っていた騎士が転び、学者風の少女が広げる本が床に落ちた。何人かが悲鳴を上げ、座った姿勢からそのまま床につんのめる。
遅れて轟音が来た。
「崖崩れだ!」
御者が叫んだ。
「てめぇら伏せろ! ちぃと揺れるが――」
再び大きな縦揺れが襲い、簡素な椅子から滑り落ちたウェルドは床に膝をついた。咄嗟に御者に目を向ける。左手に切り立つ崖から落ちてきた石が一つ、御者の額を直撃し、御者が頭をのけぞらすのが見えた。
御者が気を失い、御者席から脱落する。
馬車が暴走を始めた。
学者風の少女が、肩を覆う緑のショールの端を両手で握りしめながら倒れ掛かってきた。
「大丈夫か!」
ウェルドはそれを抱き留め、そのまま隣の少年に託す。
「お、おい――」
「安心しな。馬の扱いには覚えがあるんでね」
大剣を床に置き、床を這いながら三頭立て馬車の御者席に手を伸ばす。
「やめて! 無茶よ!」
届いた! 御者席の背もたれを強く掴み、腕力を頼りに体を手繰り寄せる。
前方に見える風景は絶望的だった。
右手は深く落ち込む谷。左手は大小の岩が降り注ぐ崖。その隙間の曲がりくねった道を、自制を失った馬たちが疾走する。ウェルドは御者席に飛び乗った。勢い余って転落しそうになる。強い日差しが顔に当たる。手探りで手綱を探し――あった! 握りしめる。
この落石では御者は生きておるまい。
「幌を開けろ!」
荷台の人間に叫んだ。
「いつでも出られるようにしな!」
「オッケー! 開いたよ!」
少女の声が叫ぶ。あの青髪の少女の声でも、学者風の少女の声でもない。が、手綱を握るのに必死のウェルドには振り返って声の主を確認する余裕などなかった。
行く手の道が細くなっていく。
三頭の馬が冷静さを取り戻す気配はない。限界だった。
「いいか! それじゃあてめぇら――」
息を吸う。黄色い砂ぼこりが喉に入りこんだ。
「順番に飛び降りろ!」
幸いにも落石は収まりつつあった。少女の悲鳴。荷台の振動が御者席に伝わってくる。
「君は!」
騎士が真後ろから声をかける。
「下りるさ。てめぇら全員下りた後でな」
「しかし!」
「うるせぇ! グダグダ言ってる暇があったら他の奴らを先に下ろしやがれ――」
「危ない!」
急なカーブ。
その先の道は崩れ、馬車が通れる幅などなかった。
馬の脚が宙を泳ぐ。
悲痛ないななき声が耳を打ち、世界中の何もかもが、ゆっくりと動いて見えた。
馬車の車輪が浮くのを感じた。
その車輪がまた、地面に叩きつけられて生じる振動。
前を行く三頭の馬の体が、前脚をばたつかせながら、虚無へと落ちていく。
誰かに首根っこ
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