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王道を走れば:幻想にて
第五章、その3の1:影走る
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る。男は荷台に乗りこむと、『聖石』を取り出して握りしめる。

「蘇れ、我が下僕よ。死して尚我に忠誠を捧げるのだ」

 杖の柄頭が荷台を叩く。魔力の波動が空気を伝わり、三つの死体をゆるりと取り巻いた。ただ腐る一方と思われていたその骸は、まるで糸に吊るされたかのように身体を起こし、ふらふらとしながらも地面に足を着ける。声もなく、生気もない。しかしそれは確実に男の動く下僕となっている。『聖石』の御蔭で一時に三体もの死体を操る事が出来る。まさに感謝感謝であった。
 男は破壊魔法の他に、死霊術にも心得があったのだ。帝国では研究そのものが禁じられているが、王国のとある魔術学校にはこれを専門に研究している老魔術師がいるという。そいつといえども、このように死体を操る術は見付けてないだろう。この術を進化させてその魔術師に高く売りつける事を、男は一つの野望としていたのだ。それをたかが賊ごときに邪魔されるとあっては、死んでも死にきれないのである。
 荷台に陣取るようにしながら男は蔵の入口を睨みつける。何時でも現れると良い、最大の魔力をもって歓迎しよう。そのように勇気を奮って構えていると、ついにその時が訪れた。
 『バァンっ』。背後にある壁が弾け飛んだ。

「ずおおっ!?」

 衝撃波を受けて男は荷台から転げ落ちて、頭を強く打ち付けてしまう。昏倒しかける意識であっても男は杖を手放さない。背後に向かって下僕らを向かわせた。動く死体にさぞ敵は混乱する事であろう。
 男は振り向いて煙が晴れるのを待たんとする。そして其処から吹き飛ばされてきた影に押し倒され、恐怖した。自分が向かわせた下僕の一人であった。いとも容易いかのように、胸部から頭にかけて刃の爪痕が走っている。
 煙から剣呑な響きが生まれた。ざしゅ、ざしゅ、ばたり。刃が何かを切裂いて、それが倒れこむ音だ。何かが倒れたかなど、地面に伸ばされた腐りかけの腕を見れば分かるというものだ。

「そんな馬鹿なっ。なんで、なんで私を襲うんだ」

 男は尻餅を突きながら、後ろへ、後ろへと後ずさっていく。股座が濡れるという羞恥は気にも留まらなかった。
 煙が何かが飛来した。赤く濡れた鋭い先端はを見て、それが剣であると知る頃には遅かった。剣が男の腹を捉え、深々と突き刺さった。

「ぐぅぁっ……」

 急速に生まれる溶岩のような熱とじわじわと広がる痛み。杖を握る力が一気に失われるのを感じて、男は仰向けに寝転んでしまった。痛みは際限なく拡大する。まるで腹の内側から甲虫に食い破られるような感じで、涙さえ浮かんできてしまう。
 こつこつと、靴を鳴らして誰かが近付いてきた。男の視界に、二人の人間が姿を現した。一人は蝋人形のような白い肌をした異様な女性である。もう一人は頬と首に黒髪黒目の若い男であった。頬と首に食い千切ら
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