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王道を走れば:幻想にて
第五章、その3の1:影走る
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かった。たとえ塀の外を警備していた者達がやられようと、館の中には正真正銘の強者達がいる。あの山賊上がりの汚らしい男も含めて、ざっと十人。忠誠を尽くして無給で働く者達もいる。いかに賊が腕利きであろうと彼等の警備が敗れるとは微塵も思えなかった。
 男は、寝台の傍にある紐を三度引く。『がらんがらん』と、館中に轟くような大きな鐘の音が鳴った。野蛮な侵入者が館に立ち入った合図である。それぞれの部屋から物々しく強者達が出て、階下へと急いでいくのが聞こえた。間もなく賊を撃退するための宴が繰り広げられるだろう。
 酸味たっぷりの林檎酒を贅沢に味わいながら、男はさらに酒を注がんとした。その時であった。

『まっ、待て、待て!助けてっ、たすけっーーー』

 潰れた鳥のような断末魔が響いた。動揺で手元が狂って、酒が手に掛かってしまう。次々と聞こえるのは、毎日顔を合わせていた者達が放つであろう、死の叫びであった。剣を打ち合わせる音も疎らという事は、あの者達が一方的に負けているという事なのだろうか。
 期待していたものとは違う展開だ。彼等が敵わぬ以上、自分も此処にいてはただでは済むまい。男は焦燥に駆られながら扉の鍵を閉めると、部屋の奥にある本棚にある厚い本を掴んで引く。本棚が俄かに手前によると、そのまま横へとずれていく。外へと繋がる螺旋階段が現れた。緊急脱出用にと作った甲斐があるというものだ。
 『どんっ』と、扉が強く叩かれた。もう外にまで誰かが迫ってきている。

「く、曲者ぉっ!!」

 男はそれに向かって魔道杖を振るう。杖の先から繰り出されたのは太さ七十センチほどの大きな『氷柱』だ。男は破壊魔法にも精通しているのだ。
 氷柱が扉へと突き刺さり、奥にいたであろう何かを食い破ったような響きを立てた。生々しく肉が裂ける音である。男は踵を返して階段を降り、ロビーに広がる惨憺たる光景に息を呑んだ。
 皆殺しの絵図であった。血塗れのロビーには彼方此方に死体があり、腹や頭など、人体の急所に深い傷跡を刻み込まれていた。侵入者は類稀な剣の使い手であろう、死体の一つは胴を真っ二つにされて半身が文字通り『引き離されていた』。何とも残酷な結果であろう。

「私が何をしたというのだ!私は善良な帝国臣民でーー嗚呼っ!父上の彫像が壊されてる!いいものだったのに!粗末な顔だが安くないんだからな!こいつらの食事代も安くなかったんだぞ!!今日は呪われているっ!!」

 男は館を出て、蔵へとひた走る。こうなれば四の五の言っていられる暇はない。何とかして侵入者を迎撃せねばならない。手段を選んでいられる必要がどうしてあろうか。  
 蔵の中ーー道中で、先程会話をした男が首を刎ねられて横たわっているのが見えたーーは、まだ安泰であった。誰も此処には辿り着いてない様子で、死体も手付かずであ
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