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王道を走れば:幻想にて
第五章、その3の1:影走る
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をさらに渡さねば石を奪って殺してやる、と言っているのだ。
 彼以外にも、複数の者達を貴族の男は雇っていた。どれもこれも山賊上がり、あるいは盗賊として身を窶していた者達だ。状況が許せばこんな者達など雇いはしない。それどころか近隣の町から選りすぐりの兵を使う事もできよう。だが自らの野望のためには倫理的に最悪であっても、決して口の割らぬような者でなければならないのだ。そうして集めたのがこの者達だ。今反乱を起こされては、野望が道半ばで挫折する事になってしまう。
 貴族の男は歯噛みしながら告げた。

「明日には追加の報酬を用意するっ、それまで待て!」
「三倍ですぜ」
「っ……いいだろう!!用意するゆえ、待っているがいい!!」

 そう叫んで男から石を奪うと、貴族は蔵を出て早足で館へと向かった。
 男の館は帝国領北ベイル州にあった。大きな農場を背後にして建物は塀に囲まれ、警邏のものだろう、いくつかの光が夜の暗闇を照らしていた。
 館の自室へ荒々しく入ると早速、男は酒の蓋を開けた。濃厚な林檎の香りは高級品の証明だ。近くの村で取れた最高の質をもった酒を、彼は幾つか拝借していたのだ。

「とんだ気狂いどもめ。此処からみすみす返すとでも思ったか」

 カップに注いで、一気に煽る。これをさらに二度繰り返すと、男の瞳は皓皓とし始めた。明確な意思が彼の目に宿っている。
 酒に汚れた口許を拭うと、邪な微笑みが浮かべられる。

「そうだ。あいつらが新しい生贄だ。幸いにも体格が良いのが三人もいる。全員殺せば、たとえ今持っている実験体がやられようと釣りがくる!我ながら冴えているではないか」

 そう言いながら、男はドレッサーの中へ隠してある魔術杖を手に取った。樫製の確りとした柄に、持ち手には煌びやかな小さな宝石が埋め込まれている。これを振るえばあの『気に食わぬ』者達を、一瞬にして『気に入る』事が出来るのだ。
 カップに更に酒を注いで、男は窓の外を見る。下劣な者達には味わえぬだろう酒気をもって、心を慰めんとしたのだ。しかしどういう訳であろうか、外にあった警邏の光が消えているのを見て彼の手は止まってしまった。

「なぜだ。皆どうしたのだ?」

 まさか逃げ出した?それとも獣に……いや、彼等は腕が立つ。それはこれまでの仕事ぶりから明らかではないか。
 そんな疑念に横槍を入れるかのように、塀の一角で不意に何かが揺れるのが見えた。じっと目を凝らすと、それは何かの人影であるのが分かる。徐々にそれは近付いてきて、館へと乗り込まんとしているのが分かった。

 ーーー誰だ……?誰が私の館に!まさか賊か!

 その影は館の死角へと移動し、姿が見えなくなった。どうやら正門にいるらしい。直に此処へと乗りこんでくる事だろう
 だが貴族の男は余裕の笑みを崩さな
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