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王道を走れば:幻想にて
第五章、その3の1:影走る
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星月の淡い光を映している。空は暗いままであった。



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 男は苛立ちを隠せなかった。必要であった商品は確かに手に入れる事が出来た。しかしその質と量に、彼は鬱屈たる思いを募らせていたのだ。 

「死体が三つだけか。どれも新鮮だが……くそ、やはり大男は貴重か!」

 貴族の館の傍に置かれた、薄暗い蔵の中には馬車の荷台が安置され、その上には無造作に血の気の引いた人間の亡骸が横たわっていた。男のものが二つ、首を絞めつけられた痕が残っている。そして女のものも一つあるが、生前の惨劇を想像させるような生々しい傷跡が彼方此方にあった。死の直前まで酷く扱われていたのだろう。
 しかし男……この館に住まう貴族にとってそれは然したる問題では無い。問題はこれらが、『生贄』としての質が良いものとはいえない事であった。彼が用いる秘術を耐えうるには心許ない身体つきであったのだ。

「こんな?せっぽちでは魔術を使っても何の意味が無い!もっと強力な生贄が必要だ!」
「……んで、あっしらはどうすればいいんで?」

 男の背後にいた粗野な男がそういう。亡骸を用意した山賊上がりの頭の悪い男だ。四則計算すら出来ぬこの者を雇うのには勇気がいったが、力任せの汚れ仕事にはぴったりであった。
 貴族は返す。

「ここに死体を放置しておけ。腐ったら使う」
「へぇ、わかりやした」
「……ん?おい、『聖石』はどうした!」
「へ?あっしは死体を運んで来いとしか言われてませんがね?」
「黙れ!それを寄越さんと碌な目に遭わんぞ!賊の風情でつけあがるな!」

 男は機嫌悪そうに唸ると、懐からそれを取り出した。鈍い黒色をした五センチほどの石だ。貴族の男が闇商人との取引で勝ち得た商品、『聖石』である。これを用いれば魔術の安定性を著しく増幅させる効用がある。秘術の成功のためには是非にも使いたい一品であった。
 貴族の男がそれを奪わんとすると、ひょいと引っ込められてしまい、手が空を切ってしまう。貴族は声を荒げた。

「何をするか!」
「あっしら、アレだけじゃ腹が膨れませんので、もうちょい報酬を恵んでもらえねぇかと」
「何を言うかっ!!オパールとサファイアだぞ!それで腹が膨れぬとはどんな食い矜持だ!」
「いや、ですからね。この国じゃ、死体弄りなんていけない事をしたら貴族であろうと処刑は免れませんよね?でもあんたは貴族の癖に、夜を見計らってやっている。これはどういう事でしょうかねぇ?」
「どういう事とはなんだ!知的探求は人類の性だ!」
「だぁかぁら、その心も今ここで無駄にされたら溜りませんですよね?あっしら、人殺しは慣れてる方なんですよ、貧乏貴族さん」

 何とも一方的で、品性に欠けて、それでいて恐怖心を煽る言葉である。詰まる所、報酬
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