暁 〜小説投稿サイト〜
王道を走れば:幻想にて
第五章、その3の1:影走る
[4/11]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初
た村では、こんな朝早くから活動している人はほとんどいない。王都であれば気の早い商人らが朝の開店に間に合わせようと張り切る姿がよく見られた。一種のノスタルジックな感じを覚えつつ、ミルカは首元についた寝汗を拭く。
 生々しい悪夢であった。暗い山道に起きた惨劇である。最後のシーンでは明らかに、必殺の一振りで人の首が刎ねられていた。コンスル=ナイトとして剣を振るう事は珍しくないが、あそこまで明確な殺意をもって誰かに対峙した事は無かった。

 ーーー任務を前にあんな夢を見るとは。何か吉凶の前触れか?

 もはやベッドで寝ようという気は全くない。仕方がないが、早めの朝食を取るとしよう。 
 水差しから一杯コップへ水を注ぎ、ミルカはナップザックから固い黒パンを出して、水に浸しながら貪った。この村の近くで買ったものだ。小麦以外にライ麦も耕しているようで、ついでとばかりに買ったのだが……。

「かったいなぁ……嗚呼、王都のパンの香りが懐かしい」

 味は御世辞にもいいものとはいえなかった。水に浸して何とか旨くなる程度である。それでも食べねばエネルギーは補給されない。大事な任務を成し遂げるためには、日々の食糧に文句を言ってはならないのである。
 ミルカがいる場所は王国最西端の村で、さらに其処から足を伸ばし西にある大国、神聖マイン帝国へと『忍び込む』予定となっている。レイモンド執政長官直々の命を遂行するためであった。
 長官は自らの執務室で、こう始めた。

『この件は北嶺監察団が帰って来る前までに動かさんといかん。もうじき、エルフ領では『賢人会議』が行われるそうな。それを受けてからでは遅い。
 お前に問う。「カーター」は知っているな?去年付けで、コンスル=ナイトの宿舎を警備を辞めた者だ』

 カーターなる男は元は憲兵の使い走りであったが、他の者に比べて功績が著しい事で役人の一人に気に入られて昇格した者だ。二年ほど前からコンスル=ナイトの宿舎警備の任に就き、去年の夏を機に体調を崩し、秋の半ばには療養のために故郷へと帰っていた。
 本来なら二か月には王都に帰ってくるはずであったが、一向に帰って来ず、不思議に思って使者を差し出した所、彼の家はもぬけの殻となっていたらしい。

『事件があるのではと調べを進めて居たらな、やつの交友関係に一つの妖しい噂が持ち上がった。それを探っていく内にとんでもない事が分かったのだ。あの男、ブランチャード夫人と密通しておった』

 男爵夫人、淫猥なる醜態。夫の居ぬ間によその男と盛る。宮廷全体に飛び火しかねない一大問題であった。
 状況をさらに悪化させたのは、事が判明した時、夫人は妊娠五か月目であった事だった。身籠ったのが監察団……すなわち男爵が王都を出た後なのは確実。すなわち彼女の胎にはカーターの子が宿っているの
[8]前話 [1] [9] 最後 最初


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ