月が隠れている内に… その一 今も、昔も…無力な自分
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いや、…敢えて言うならばあの頃よりも小さく見えることぐらいろう。
勿論、規模は半端ないままだが、在校生から見るのとOBとして見るのではやはり感覚的にも精神的にも明らかに違う。
一度深呼吸をし、理事長室へと歩みを向けた。
何故、あの夢を今頃見たのだろう?
勿論被害者でもあり、加害者でもある自分があのことを忘れるはずがない。
だが、それでも夢に出てくるのはとても久しぶりだった。
卒業してからは忙しさにかまけてレム睡眠だけを貪っていたため、それらしいものを覚えていない。
これも祖国に帰ってきたということなのだろうか。
あの日、悪魔に意識を乗っ取られそうになった時助けてくれたのが今は亡き、藤本神父だった。
孤児になってしまった恵里は親戚に引き取られたが、アレから見えざるものが見える体質になってしまい、彼の紹介で正十字学園に入学した。
そこで、まさか成長した二人に再会できるなんて…と、呪われし体になってしまったことにあの時ほど感謝したことはなかっだろう。
充分に「恋する乙女」なのだと自覚したのは悔しくもライバルの存在を知ってからだった。
「……っ」
理事長に軽く挨拶を済ませ、自分も授業を受けていた一一〇六号教室をドアの小窓からこっそり覗き見ると、今まさにその最中のようで、必死の形相でノートと黒板を行ったり来たりを繰り返す生徒もいれば、誰かさん同様に居眠りを決め込んでいる者もいる。
(変わらないなあ……この場所は)
思わず顔が緩んでしまう。
あの日よりもすっかり大人の男性になってしまった奥村雪男はその彼の頭の上に何かの紙を乗せると、予鈴と共にこちらに向かってくる。
「あっ」
卒業生代表で答辞を読んでいた姿が脳裏を過ぎった刹那の出来事だったため、反応に遅れた瞳にギィィィィと如何にも古めかしい音を立ててドアの隙間から現れた彼の瞳とぶつかった。
「っ?!君はっ」
青い日々よりも少しトーンが落ち着いた声に明後日の感情を抱く彼女が次に目にしたのは、ごつごつとした左の薬指に嵌められた銀の指輪だった・・・。
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