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久遠の神話
第九十四話 憂いが消えてその九

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「捕らえられてね」
「そうだね、それでセレネー女神の想いは」
「そのことね」
「どうなるかだね」
「それはもう」
 今度は豊香が答えた。
「諦めるしかないでしょう」
「やはりそうなるね」
「はい」
 苦い顔での返答だった。
「そのことについては」
「だからですね」
「そう、けれどそのことはそのことで」
「まずはですね」
「僕は僕の仕事をするよ」
 それをだというのだ。
「その炎の剣士の家族を助けるよ」
「お願いします」 
 聡美が切実な声で兄に言う。
「是非」
「それではね。さて」
 ここでだ、アポロンは弁当を全て食べ終えた。そのうえでお茶も飲みそうして満足している顔でこう言ったのだった。
「ふう、美味しかったよ」
「そうですか、それは何よりです」
「日本は海のものをよく食べると聞いていたけれど」
 それでもだとだ、アポロンは奇妙な顔で言うのだった。
「雲丹は」
「ギリシアでは食べませんね」
「うん、イクラにしても」
「蟹はともかくとして」
「こうしたものは食べないからね」
 だからだというのだ。
「不思議に思ったけれど」
「美味しかったのですね」
「それが不思議だよ」
 実にだというのだ、食べてみてもアポロンは不思議そうな顔をしたままだ。
「雲丹みたいなものが食べられて」
「しかも美味しいということが」
「他にも日本人は色々と食べるんだったね」
「はい、海のものなら」
「面白いね。それならね」
「それなら?」
「聞いているよ、日本人は特に毒のある太っている肴が好きだそうだね」
 アポロンは笑って言う、その魚とは何かというと。
「河豚だったね」
「はい、毒がありますが」
「その味はかなりいいそうだね」
「絶品です」 
 確かな声でだ、聡美は自身に兄に答えた。
「本当に」
「それでは仕事の後でね」
「その河豚をですか」
「食べようと思っているけれど」
「しうですね、それでは」
「いいお店を知っているのかな」
「私達が今いる街にもです」
 そのだ、河豚が美味しい店があるというのだ。
「ありますので」
「では行くよ、河豚を食べにね」
「そうですか、では」
「まずは仕事をして」 
 このことは忘れていなかった、やはり彼も神であり己のすべきことをわかっているからだ。それで何よりもそれを優先させて言うのである。
「それからだよ」
「ではお願いします」
「さて、今はどの辺りかな」
「大阪市を出ました」
 窓の外を見てだった、聡美は景色によりそのことを確かめて答えた。
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