SS:鬼、縁、そして翼
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の今まで騙し続けていたその男を、少年はとても醜いと思いました。この剣だって、きっと殺して奪い取ったに違いありませんでした。きっと他の大人たちにも真実を教えないよう事前に話していたのでしょう。
少年の心に浮かんだのは、怒りでも憎しみでもなく、侮蔑の感情でした。
やがて少年は、父親と呼んでいた死体を蹴り飛ばして女の人の下へと走りました。
やはり女の人の言うことが正しかったのです。少年は感謝しようと急いで女の人のいた檻へと駆け出しました。しかし、そんな少年の向かう先から、風に乗って血の臭いが届きます。まさか、そんな筈は。魔物はみんな殺したはずなのに、と少年の顔はどんどん曇っていきます。
そして、檻までたどり着いた少年を待っていたもの。
それは一人の大人と、切り裂かれて床の上で息絶える女の人でした。
彼女は、大人に死んだまま辱めを受けていました。少年はその余りに醜悪で残酷な光景に言葉を無くします。大人は少年の方を向き、その手に握られた血みどろの剣を見て悲鳴を上げました。男は背中に壁が当たるまで後ずさり、何かに駆られるように血走った眼で一方的に喚き散らしました。
オヤカタノモトカラ、ニガシテヤルッテイッタンダ。ソノカワリ、オレノオンナニナレッテ。
ハロルドガキタンダカラ、カチメナンテアルワキャネエ。ダガ、オレトコイツダケナラダマッテニゲラレル。
ナノニコイツ、オレトハイヤダッテイイヤガッタ。モウオレニモホカノオトコニモ、ダカレタコトガアルクセニ――
それ以上は聞くに堪えないと思った少年は、その大人の首を剣で撥ね飛ばしました。
どうしてヒトは醜いんだろう。
どうして自分は今まで騙され続けていたんだろう。
どうして女の人は死んでまで弄ばれなければいけなかったんだろう。
そんな疑問を抱きながら――少年は女の人の亡骸を拾い、盗賊団の元を去りました。
少年は亡骸を空が良く見える丘に弔い、彼女が唯一身に着けたままだったイヤリングを形見として耳から外しました。それを受け継ぐことで、彼女から知恵を受け取ったような気がしたからです。
数日後、魔物の大軍と戦うための国際会議が開かれる場に、全身黒ずくめの小柄な剣士が突然現れます。
少年は右手に指名手配された凶悪な盗賊の首級を、左手には「魔物の将軍」の首級を携え、会議に参加した国や種族の代表たちにこう言い放ちました。
「我が名はクロエ――我は罪を犯した鬼を儺い、ヒトの心が生んだ鬼をも儺う『鬼儺』なり。我を認め、雇われよ。対価を支払うのならば、望む首級を貴殿らに与えよう……貴殿らがヒトであるかぎり」
それが、少年の出した答えでした。その耳には女の人から持ち去ったイヤ
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