第三話
[19/27]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
「言っておくがさっきのは誤解だ。シャンテにソースをかけられたからシャワーを浴びていた」
「はあ」
「動物的な奴でな。同じ隊の仲間なのだが懐かれているらしい。やめろと言っているのだが度々入り浸る」
「……」
「その度に隣の部屋に返すのだが……もう少し節度を持って欲しいものだ」
「惚気だけなら帰ってもいいですか?」
「何故そうなる」
心外だとゴルネオは眉を潜める。本人にとっては苦労話のつもりだとしても部外者から見ればそうとしか見えない。
「少し気になっていたのだがレイ……アルセイフは」
「レイフォンでいいですよ。呼びやすい方で」
「そうか。兄が呼んでいたのを何度か聞いていたのでこっちの印象が強くてな。そっちも呼びやすい方で構わない。でだ、率直に聞くがおれは何か嫌われることをしたか? 隙を見ては帰ろうとしているが」
正直に言うべきか。少し悩むが、嘘を言う理由もないかとレイフォンは正直に言う。
「嫌いというわけではなくて、何というか前知識の時点で苦手意識が」
「それは何故……ああいや、済まない。聞くまでもなかったな」
何かを察したようにゴルネオは同情的な視線を向ける。
深い諦めと疲れを潜ませたそこには同じ悩みを抱く仲間の色がレイフォンには見えた様な気がした。
「ゴルネオさんも分かりますか」
「レイフォンのように直接的ではないがな。だが弟して生まれた時から十五年同じ家で一緒にいた」
十五年。その長さにレイフォンは胸を打たれた。
現状ゴルネオはツェルニの五年という事で二十歳といったところ。つまり人生の四分の三を共に過ごしたということになる。レイフォンの人生で言えば生まれてから今までと同程度だ。
「っ、それは、酷い……僕なんか実質的な時間としては一年半程度だっていうのに」
「いや、そっちの方が酷いさ。おれは殴り掛かられるなんて事、向こうの暇つぶしの教導で数える程。下手に才能が無かったのが功を奏した」
「それでも同じ家で何て僕としてはとてもとても」
「弟だからな。親も兄弟のじゃれあい程度にしか思っていなかった。色々と諦めたさ」
そこには少し前の遠い距離感も沈黙もなかった。形は違えど同じ悩みを持つもの同士の奇妙な連帯感と暖かさ。故郷では得られなかった同胞がいた。
ひたすらにレイフォンは愚痴を吐いた。何度死を覚悟したか。出稼ぎに都市を出たとき安心したか。憧れの天剣授受者が精神異常者さながらのこと。そのせいで逃げる技術が上がったこと。悪夢にまで出たこと。文字通り生き残るための技術を必死で磨いたこと。
ゴルネオも愚痴を吐いた。弟なのだから同じ程度に強くなるだろうと一時期おもちゃにされていたこと。親が兄弟なのだからと兄に自分の教導を頼んだこと。死を覚悟したこと。逃げる
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ