第百五十五話 加賀入りその九
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「では都合がよい」
「ですな、それでは」
「うむ、追いつかれずにじゃ」
「あまり離れずにですな」
「そうして」
「誘き出すぞ」
こう話してだった、そして。
丹羽は門徒達を見て逃げる仕草を見せた、門徒達はそれを見て向かう、しかしそれでも彼等は気付かなかった。
山の方を見ていない、しかも。
丹羽達を一心不乱に追いかけてくる、その足は速い。しかし丹羽はそれもわかっていて冷静な目で彼等を見ている。
それでだ、こう言うのだった。
「気付いておらんな」
「そうですな」
万見も丹羽の横で言う。
「見たところ」
「どうもあの者達は個々では強いが」
闇の服の者達、その門徒達はというのだ。
「しかし兵法はな」
「あまり知りませぬな」
「どうにも」
「うむ、武芸はよいが戦は素人じゃ」
丹羽から見てもだった、このことは。
「それでは戦い方がある」
「では、今は」
「裏手までじゃ」
そこまで誘き出してだった、今も言うのだった。
「そこで殿が動かれるからのう」
「そうですな、しかし殿は」
万見は丹羽のその言葉に頷きながら述べた、唸る様な顔で。
「お見事ですな」
「そうじゃな、戦に強いわ」
「普通は一気に攻めますが」
あと二つ敵がいる、それならばだ。
「ここは慎重にですな」
「各個に確実にじゃな」
「そうした考えですな」
「それが殿じゃ」
信長だというのだ。
「例えどうした状況でもな」
「無理はされませぬな」
「無理をすると怪我をする」
軍も人が多く死ぬというのだ。
「だからじゃ」
「急ぐ時でもあえてですな」
「それに正面から攻めては余計に時がかかる」
戦が激しくなるからだ、激しい正面からの戦は余計に時がかかることも信長は頭の中に入れて動いているのだ。
「それでじゃ」
「こうしてですな」
「策を使われるのじゃ」
「そういうことですな、では」
「追いつかれぬ様にな」
敵の動きは速い、だがそれでもだというのだ。
「そして離さぬことじゃ」
「さすれば」
こうして丹羽達はあえて山の裏手まで適度な距離で逃げた、そして。
門徒達はひらすら追って来る、彼等は遂に山の裏手まで来た。信長はそれを山の中、木々の間から見ている。
見れば旗は立てられていない、大軍は見事に隠れている。
その中でだ、信長は闇の服の者達が目の前まで来たところで言った。
「よし、ではじゃ」
「これよりですな」
「今より」
「うむ、攻める」
そうするというのだ。
「法螺貝を吹け、声と共にじゃ」
「ではそれと共に」
「今より」
「皆山を駆け下りその勢いで攻めよ」
これが信長の今の攻め方だった。
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