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渦巻く滄海 紅き空 【上】
二十七 十日目
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のつもりでナルトを誘った香燐がのんびり歩く。風化して崩れている石柱でさえも今の彼女には優雅な装飾を施した芸術品に見えた。

ナルトにしたら単なる散歩でも香燐にとっては楽しい一時である。浮き立つ心を抑えつつ、前々から疑問に思っていた事を香燐は口にした。自身の後ろを歩いているはずのナルトに訊ねる。

「結局、あの神農って野郎はどうなったんだ?」
答えは返ってこない。怪訝な顔で振り返った彼女は、立ち止まってどこか遠くを見つめているナルトに気づいた。仕方なく倒壊した大理石の上に座る。

遠くに連なるジャングル。前方に広がる蒼茫たる樹海をナルトはじっと見据えていた。だが彼の意識は、身を潜めてこちらを窺っている空忍の残党にあった。密かに印を結ぶ。
そしてようやく香燐に顔を向けた。

「簡単だよ。最初から悪人である人間はいない。人の心は生まれた時は白紙で、周囲の環境や人間関係、経験などが肉付けして人格が形成される。ならば良心のみを残し、それ以外を全て取っ払ったらどうなる?」
そこで言葉を切って、ナルトは自身の背中をちらりと一瞥した。訝しげに「そんな事が可能なのか?」と独り言のように香燐が呟く。ナルトは視線を香燐に向け、次いで村がある方向へと向けた。

「心の闇っていうのは誰しもが持っているものだよ。それに働きかけ、増幅させるのが神農のやり方だった。精神を脅かす事で闇チャクラに昇華させる。だがそれは逆も然り。心の闇を尽く喰い尽くせば、その人間は……」
「善人になる?」
言葉の先を引き取って、香燐が続きを言った。重々しく頷くナルトに「なら万々歳じゃねえか。なんでそんな苦しそうな顔をしているんだ?」と不思議そうに訊ねる。

「考えてもみなよ。素直で正直。真面目で温順。確かに理想的かもしれない。でもそれは彼の個性を奪ってしまった事に他ならない。また村人と違って記憶を消したわけではないから、神農はこれから一生良心の呵責に苛まされる事になる……きっとそれは死にも等しい、いや死ぬより辛い世界なんだろう」

顔を歪め、苦しそうに喘ぐナルトを香燐は確かに見た。だがそれはほんの一瞬で、すぐさま彼は明るい表情を取り繕って「そろそろ戻ろうか。君麻呂のリハビリを手伝わないと」と微笑んだ。



要塞へと向かうナルトの背中を見送る。暫く立ち竦んでいた香燐は、ふと空を仰いだ。空を自由に飛ぶ鳥を眺め、あの目が回るような濃い一日を思い返す。
「でもわざわざ零尾と神農を切り離したのは、神農を人として生かしたかったからなんだろう?」

石盤に施された口寄せの術式。神農と零尾が元に戻った瞬間を見計らい、ナルトはメスを突き刺した。もし同化したまま術式の名を削っていたら、人間に戻れなくなる可能性があったからだ。


「ダーリンが悔やむ必要はないのに…」

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