詠われる心は彼と共に
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戦前の軍議の様子を思い出して、副長と共に馬の上で揺られる詠の緊張は今回の戦場に赴く前に和らいでいた。そのままの心理状態で行われる思考は鋭く、今も冷静さを保ち続けている。
孫権軍との初戦は予定通り互角に抑える事に成功し、幾日かは戦が行われなかった。次の日も続けて出撃を行おうとしていた秋斗に対して、詠が一つの忠告をした為に。
彼女は孫権軍の勝ちにも負けにも拘っていないような兵の動かし方を見抜いていた。
それならば、こちらからそんな茶番にわざわざ乗ってやる事もない。早い内に追い返したいのは間違いない。ただ、それで兵を無駄に死なせてしまうのは違う。
連続戦闘は出来る限り避けて、出来れば日を置いての数回で決めてしまうのが最善だと献策した。
秋斗もその案に頷き、実行に移したのが数日前。
二回目の戦闘では秋斗自体が戦った為、味方の被害は抑えられ、敵の被害も上々であった。その戦闘で敵が取ってきた戦術は防衛集中、目立った攻勢は無く、狙いは徐公明からの被害を減らすことのみ。
敵将の甘寧、周泰は秋斗を止める為に動くかと思われたが、変則的な動きを以って並み居る部隊の隙間をついて劉備軍の連携を崩す事に専念しており、その対応に追われて少し手こずった程度。
そして現在。初戦から十日ほど経った三回目の戦闘。
互いの軍は拮抗していた。秋斗が直接突撃していない状態で。
敵の狙いは袁術軍の被害を増やすことを念頭に戦線を維持している。詠は頭脳をフル回転させて入る情報を整理し、後に一つの波紋を作ることを決めた。
「周倉、今から本格的に戦場を動かす。暖めてきた徐晃隊を使うけど秋斗にはちょっと無茶をして貰うことになるわ。動揺を誘う為に戦線を押し広げましょう。最後の狙いは――――」
語られた策に目を見開いた副長はすぐに大きな声でそれぞれの隊へと指示を出し始める。
「上手く行けばこれで決まる」
「……えーりんはただの侍女だと思ってたんだが……ここまですげぇ軍師とは思わなかったぜ」
「えーりん言うなバカ!」
小さく怒鳴った詠に対して、副長は小さく苦笑して受け流す。普段の徐晃隊では良く見られるその光景に周りにいる数十の徐晃隊員達は安堵に包まれた。
この時、副長も徐晃隊も彼の元に馳せ参じたいと焦れていた。鍛え上げた力と連携で彼の手助けをしたい、彼の行く道を広げてやりたい、と。
そんな中で行われた他愛ない詠と副長のやりとりは、彼が告げた命を遂行出来るようにだけ意識を向けさせる事に成功した。
適度に緩い空気で待つこと幾分、秋斗から了承の伝令が来ると同時に詠がコクリと頷き、副長は大きな声を張り上げる。
ゆっくりと劉備軍の陣容は大きく変わり始める。
その様相は二つの羽を伸ばす鳥のようで、されども中央は鋭い角で貫いてやろ
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