詠われる心は彼と共に
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目もある。既存の兵を騙す事になるが、その程度は被害が増える事と天秤に掛ければどちらに傾くか言うまでも無い。
少しだけ逡巡した後、
「雛里……一着だけ服をダメにしちゃうけどいい? 胸の部分だけ目立たないように布を継ぎ足したらいけると思うんだけど……」
未だに自身の胸に不満の眼差しを向け続ける雛里に問いかけた。それを聞いて雛里は泣きそうな、女としての敗北の悔しさがありありと浮かんでいる瞳を向ける。
「……構いません。こちらの被害が抑えられる事は確実ですから。でも……ひ、一つ聞きたい事があり、ありましゅ」
何故か噛み噛みになる彼女に秋斗も詠も訝しげに見つめる。雛里は恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら詠に身体を寄せて、
(胸が大きくなる方法を教えてくだしゃい)
自身の望みを小さく耳打ちした。空白の時。後に、詠は盛大にため息を吐いた。
「秋斗、あんたは胸の大きさで女を好きになる?」
「え、詠さん!?」
突然の質問の意図が分からず、秋斗はしばらく考えた後に、胸の大きさを気にするのは女の子によくある事だと思い至って自身の意見を述べる事にした。
「大きい胸も小さい胸もいい所がそれぞれあるだろうよ。女の価値や良さは胸の大小じゃない。それを中心に好き嫌いの判断をする男は欲が真っ先に出るケモノで、俺が一番なりたくない部類の男だ。ま、胸がどうだろうと、雛里も詠もとびきり可愛くていい女である事に変わりない」
答えを聞いた雛里はゆでダコのように顔を染めて俯いた。詠も頬を紅く染めたが、この鈍感男が勘違いしての無自覚発言だから気にするなと言い聞かせて心を落ち着け、不思議そうに少しだけ首を傾げる秋斗をじろりと藪睨みして口を開く。
「あんたはホントに腹立つくらい……まあ、これで次の戦場に向かう人選は確定。月を守る為に徐晃隊第一小隊の腕っぷしが強い順で二十人をそれとなく城に残してくれるなら、ボクも安心出来るしお願いしていい?」
「ああ、最初からそれはするつもりだ。第一のバカ共は『ゆえゆえを守れるなら喜んで!』なんて嬉々として残るだろうし。それと副長と数十人を詠に預ける。戦場では『鳳統』と呼ぶように言っておくが……クク、いつものように『えーりん』と呼ばれても振り向くなよ?」
「分かってるわよ! 全く……徐晃隊のバカさはおもしろいけどあの呼び方だけは直して欲しいわ。まあ真名しか名乗れないから直接呼ばれるよりはマシだけどそれでも――――」
からかいの視線を向ける秋斗に跳ねるように食って掛かった詠は続けてぶつぶつと不満を零していき、雛里はその様子を見てクスクスと可愛らしく笑った。
次の戦場は近いが、どこか穏やかな空気で続けられる軍議に三人の心は張りつめすぎずに最良の状態であった。
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