詠われる心は彼と共に
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晃隊はどうだろうか。
そこまで至って秋斗は剣を降ろす。さらには洛陽で雛里に怒られた事を思い出して万が一の場合を考え直した。そこまで大きな無茶をするつもりは無いが、どちらも渡れるが吊り橋よりも堅実な石橋を選べというのが詠の言いたい事なのだろう、と。
兵の被害よりも自身の確実な安全。想いを繋ぐのは誰であるのか。
そのまま、二人の若き将に自分の行き場の無い感情と思惑を叩きつける。
「見逃してやる。失せろ首輪付きの忠犬共。後な、出来るなら鎖に繋がれた虎に伝えろ。早い内に引きちぎれる事を願っている、とな」
自身を睨み続ける二人に、これ以上はもう必要ないとばかりに背を向けて秋斗は引き返していく。
思春がまだ飛びかかろうとしたが、明命が剣を向けてそれを制した。
「我らが大望の為に」
たった一言。そして見つめる哀しい瞳を受けて、思春はギシリと歯を食いしばって両の手に持つ刃を下げた。
戦場はまだ続いている、ならば自分達に出来る事を。
悔しさに捻じれる心を抑え付けて二人は駆けだし、それぞれの部隊の指揮へと向かっていった。
撤退を行う孫権軍に対して、劉備軍は追撃をそこそこに引き上げた。
その日の夜、戦場で連れ出されながら気を失っていた蓮華は、意識を取り戻してから自身の不甲斐無さから悔し涙を流した。臣下達も、自身の主を命の危機に瀕する事態へと追いやった事に拳を握りしめて己を責めた。
皆の心には深く完全敗北の文字が刻まれる。軍師にしても、将にしても、王にしても全てが足りなかった、と。
ただ、彼女達の望みは確かに叶った。
大きく数を減らしても、屈辱的な敗北に心を焦がしても、絶妙な時機で戦場を離脱する事に成功したのだから。
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