詠われる心は彼と共に
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を逃すほど詠も甘くは無く、劉備軍の前兵は兵列を整えながらもじわりじわりと追いすがっていく。
中央ではゆらりと、長い剣を引きずって立つ影が一つ。目を細めて二人を見つめる秋斗はごく自然な動作で、いつものように剣を水平に構えた。
「徐晃隊の隙間を抜けてくるとは……しかも不意打ちで俺を殺そうとしたってのは褒めてやる。だけどな……ここからはお前らじゃ力不足だ」
思春と明命に対してなんでもないように言って退けた秋斗は、返り血で染まった顔でにやりと笑った。
それを見て、激情と冷静のハザマで感情が揺れるも、瞬時に全ての感情を殺して敵への殺気のみを収束し、二人の少女は二方向から最速の攻撃へと移った。
肉薄同時に刃を向けようと構えを変えた一寸の時間、剣をするりと手放した秋斗の姿がその場でぶれた。
相手が秋斗でなければ二人の連携は見事。秋斗が剣を振っていれば、確実にその速さを以ってどちらかが大きな傷をつける事が叶ったのだから。
彼女達は知らない。地に脚を付けた彼がどれほど暴力的な存在であるのかを。一瞬であれば、自身達と同じほど速く動ける事を。剣を振るわずとも十二分に戦える事を。
膝を抜いて縮地を行い、絶妙な間隔を保って迫ってくる二人、その懐に潜りこんだ秋斗は流れる体躯の勢いを乗せて双方の腹に掌打を叩き込んだ。
一瞬の出来事に思春も明命も判断を見失う……事は無く、衝撃で吹き飛ばされてから、痛む腹を抑えながら思考を繋いで大きく距離を取った。
諜報という側に身を置いてきた彼女達の判断能力、適応能力はずば抜けて高い。故に、彼の実力を見誤らず、剣を拾い上げた秋斗と睨み合った。
三人は互いに膠着していた。いや、動けなかったというのが正しい。どちらの思惑も主力の将を縛り付けて被害を減らす事だと一致していたから。
もはや退却戦となった為に孫呉側は被害を少しでも抑えたい。徐公明という武将は脅威であった。
追撃戦となった劉備軍側も同じく、二回目の戦闘で部隊を上手く操っていた二人をこの場に長く縛り付けておきたい。
しかし、何がどれだけ得かを考える頭は秋斗の方が上。
二人が撤退指揮をとった方が孫呉側は得が多い。だからこそ、この場に居座る選択をした。
ただ、秋斗は彼の事を心配する人の心は読めなかった。
「御大将、『鳳統』様より休めとの指示が来ております。下がりましょう」
徐晃隊の一人が駆けてきて二人の将と相対する彼へと言葉を掛ける。それを聞いた秋斗は目を細めて、
「……あいつがそう指示を出したのか」
剣を少し下げた。間違いなく、兵の被害を減らすなら秋斗も追撃に加わる方がいい。それを抑えてまで下がれと言うからには詠にも何か考えがあるのだろうと考えて。
――体力的には二人と戦ったとしてもまだ行ける。しかし徐
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