象徴ストーリー
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んでしょ?」
僕らは上手く逃げ出せなかった自分の不甲斐なさをまったくごまかして、一瞬見えたお互いの容姿を褒めあいながら自尊心を保っていた。そして長い時間が経って、もう呪いは効くことなく、僕は幾度となく反吐を吐いている。扉など開くわけもない、そう何度も思った。よこしまな考えを持ってしまった事に自責の念が。
空気は薄くなり始めている。薄いことに気付くほどに薄くなって、なるほどそれほど高いところに運ばれたのかと思わせる。僕は、男の気が悪くならないように、彼の念を乱さないように静かに暗闇と酸素不足に耐えていた。彼の念だけが救いなのだ。静寂と暗闇と人いきれで忍耐のキャパシティーに不快感が満たされてゆく。もう一時間以上ドアは開かなかった。
「なあ、仕事中遮って悪いが、何を念じているのだ」と紳士が訊いた。
「何を?」自信無げに言う。「いや、テンピュール・・・」
「テンピュール!?」と僕は男に言った。「テンピュールに何を念じていたんだ!」
「怒るなって! テンピュールをしつこく勧める男と戦ってたんだ。もみくちゃにされながら、想像力を駆使して戦っていたんだよ。何せやつはどんどんテンピュールを押し付けて来るんだ。低反発の効果がなくなるほどに強く押し付けて勧めるんだぞ。これは気持ちがいいってね! どんどん押し付けられて本当に疲れたんだぞ! それに扉も開いたじゃないか!」
「そして今、何を念じている」と紳士が言った。
「まだ、テンピュール男と戦っているよう」と男が答えた。
「それが呪いか、願いか、妄想なのか、見えないものと闘っているのかも知らんけど、もうドアは開かないんだな?」と僕は言った。
「開くかもわからないじゃないか! 何で信じない」
「あほか! お前は。何でそんなイメージで扉が開くなんて思うんだ」と僕は声を荒げた。
「きっと君の念で扉が開いたわけじゃないよ」と紳士が皮肉を込めて言った。「テンピュール、いい枕だ…扉を開けさせたのは、きっと彼女の『俺たちから逃れたい』『犯されるのはいやだ』という強い想いだったのだろうな」
「やはり僕らは臭いますかね?」と僕は言った。「僕らから逃げたかったか…」
「よし、壁をぶち破るぞ」と紳士が僕の言葉をさえぎって言った。「こう見えても空手やってた。極真だ」
「ここから出るぞって気合を伝えるんですか」と僕は訊いた。
「その通りよ」と言って紳士は拳を固めてドアの方をど突きはじめた。そして僕もやわな拳を使ってドアを叩き始めたのだ。
僕は紳士に負けないような大きな気合の入った音を出そうと、数回殴っただけで皮がはじけちまいそうなひ弱な拳で、必死にドアを叩いた。僕の隣では紳士が鍛えられた男の拳をドアに叩きつけている。そういえばドアが開いたとき彼の拳には拳だこが見えていた。僕らが歯を食いしばっている間、男は黙っていた
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