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象徴ストーリー
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」僕を指差している。僕は黙っていた。こういう中年はたまにいるのだ。
「すいませんけど誕生日はいつ?」と女の人が僕に訊いた。何故? と僕が聞き返すと「八月十日じゃない?」と訊いた。
「悪いけど僕は八月じゃない」と僕が言うと、八月の人いないかしら? と彼女は他の二人に問い始めたが、二人とも八月ではないようだ。
「何故八月十日なの?」と僕は訊いた。
「速水もこみち君の誕生日なの」と女は言った。とても困った調子の声だった。
「それと何の関係があるの?」と僕はまた訊いた。
「彼の写真で着てたバスケットボールのユニホームが14だったの。しかもね、14番が好きになって競馬で14番を買ったら当たったのよ」
「彼が好きなんですね」と僕は彼女に言った。彼女は黙っていた。彼が好きなんだ。
「14番ならいくらでもいるよ」と男が口を開いた。指はボタンを叩き続けている。「俺が知っている14番は試合には出ないが試合をコントロールするんだ」
「それはどういうことですか」と紳士が言った。「気功ですか」
「いや、14番が元気だと試合に勝つんだ。機嫌を損ねると試合に負けちまう」
「それはシンクロニシティーかな」と紳士は意気込んだ。
「試合に勝っているから機嫌がよいのじゃないですか?」と僕は言う。
「いや、言葉には出来ないが、そんな因果じゃない」
「14番を持ち上げていれば試合には勝つんですか」と僕は訊いた。
「14番は気難しいから簡単には気分が乗らないんだ」と男は言った。
「それは間違いなく気功の一種だ。14番の気が皆に伝染したのだよ。とてもいいヒントだ」と言って紳士は何か集中し始めた。
「モールス信号、打ち方変わりましたね」と僕は男に訊いた。
「少し長いの打ってる」と彼は笑みを漏らした。少年のような笑みだ。
「何と打ってるんですか?」と僕は訊いた。
「懺悔してる」
「何を」と僕は言って「モールス信号で打つより口に出しませんか?」と勧めてみた。だいいち、口に出して「開けゴマ」とも言ってないんだ。
 僕らは『開けゴマ』とか『OPEN』とか『速水もこみち君』などと今までのキーワードを口にしている。『速水君』の名前のときだけ紳士は黙っていたし、女の人は彼の名前を言えなかった。そしてやはり扉は開かなかった。
僕達は大きな箱に抱かれて、何か広大な土地に投げ出された都会人みたい。すべては空気に吸い込まれて届くべきところに届かないのかも。救いを求めるなら、すべての恣意を汲み取るような大いなる思考が必要なのかもしれない。十四のオレンジ色の光はそのまま消えることなくぼんやりと闇を照らしている。
 
紳士はまだ吸殻をもてあそんで、手をかざしたりしている。僕がそれについて質問すると、気功で吸われてしまう前のタバコに戻していると答えてくれた。男はひたすらにモールス信号を
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