象徴ストーリー
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まれているわけだ」
「煙たくなったからじゃない?」と、女の声が会話に差し込まれた。
「確かに煙い」と、僕は言った。男はわかったタバコは消そう、と言って足元に火を落とした。
「それでも試すよ」と言った男を止める人はいなかった。男は丁寧に壁を指でさすり、引っかかりを見つけては指先をぐりぐりとねじ込ませようとしている。オレンジの薄闇の中でもその姿が感じ取られる。腰が出っ張ってサルのようになり、力を入れた指先は痙攣して、箱を振るわせた。
「案外カタカタいいますね」と紳士が言った。
「ジャンプしても大して揺れないのにね」と僕は言う。
「あんまりやらないで」と女が言った。「不安にさせないでよ」
「このまま波に任せて不安じゃないのかい」と男は強く言った。言葉に強い訛りが入っていた。僕は波に任せるセックスを想像していた。僕は日ごろの行為に満足していないらしい。すぐセックスな事を思いつく。脳の深部に突き刺さるような刺激があり、それが体の真ん中を通って陰茎に辿り着いた。少しだけの勃起。
「ボタンを押したところにだけ止まる。それがエレベーター。ボタンを押しても止まらないところは無いはず。ボタンを押しているところにはまだ着いてないだろうから止まらない。エレベーターは神様。人間の自由にはならないところがあるから」と、紳士が早口でまくし立てた。いったい何を言っているんだ。神様とか。
それでも男は壁をこじっていた。僕は成り行きを見守っている。まだ命の危機は感じていないから、僕はおちんちんが大きすぎて鈍くて感じないから、黙って壁をこじ開ける彼を見つめていた。黙って見ている僕はニヒルだろうか? いや、ニヒルに見えるけど実はそうじゃないんだ。僕の心の奥底には、出口への眼差しがしっかりと据えられている。今は黙って見ていよう。いつか心の留め具が、ピンとはじけ時まで。
そして僕はパンツの中で大きくなり続けている陰茎を、別に出しちまってもいいかな、暗闇だから、と思いながら意識して勃起をおさめようともしていた。
「ボタンを押した階は形而上の出口。我々の心の中にある」と紳士はきっぱりと言う。「我々が気付かない限りのぼり続ける」
「何に気付けば止まってくれるのかしら」と女の人が聞いた。
「このエレベーターの存在が何であるかを探るのだ」と紳士が答える。
「わかったわ。やってみる」と女の人が答えた。
僕は思う。何故そんな話に乗るのだ。
僕はゆっくりと目をつぶって、上昇しているであろう床の圧力を感じるように膝を少しだけ曲げたり伸ばしたりして、かかとに圧力を与えた。足元にある硬い感じ。床は確かに僕らを支えている。大分時間が経ったからその下には僕らを死なす奈落が控えているだろう。僕はもっと床の確かさを感じるために靴を脱いで、靴下を脱いだ。ひんやりと冷たい床はやはり硬くて僕らを
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