暁 〜小説投稿サイト〜
象徴ストーリー
象徴ストーリー
[14/16]

[1] [9] 最後 最初
かさが帰ってきて、僕の想像は、彼と彼を取り巻く喧騒との戦いと、その中で疲弊してゆくものに届き、僕の体に鳥肌を立てた。僕は被害妄想的に過去を探したけれど、そんな体験はしていない。僕は三十年上手くやってきたのだ。何か大きな穴に吸い込まれるような、漠然とした被害妄想が僕の思考の中に巣食っていたのだろうか? それが僕を彼に出会わせた? 彼が去った後、僕の中から何か不確かなものが消えて、クリアな感情が残った。

 僕は仕事をしなければならない。

 僕は確かに思って早稲田通りを歩き出した。そして世界が明るくなった。扉は開いたのだ。

 扉が開いたのを確認したときすでに、他の二人は駆け出していた。僕は飛び上がるようにして立って扉の向こう側に走った。扉が開いたのだ。
扉の向こうは明るい。晴れた屋外プールの水中のように明るくて澄んで視界が突き通る。僕らは石の中にいたようだった。振り返ると石の肌がある。固い青灰色の磨かれた肌。滑らかに神様が撫で付けたような岩肌。走り出たところに踊り場があった。階段が巨大な石柱に張り付いているような造りだ。頂上は近い。下界は遥かに遠い。雲が足元をはっている。僕らはこんな所まで運ばれてしまったのだ。空気が薄い。
男はにこにことして頂上を見ている。息が上がった紳士がいる。彼の手は血にまみれている。僕は彼らに指を指して頂上に行くのか? 下に下りるのか? を無言で尋ねた。男は手を振ってうずくまり、紳士はボウと僕を見ていた。僕は酸素不足で思考がまったりしている。のっぴきならない状況であるのにまるで夢の中にいるように僕はぼやけている。そして僕はゆっくり頂上を目指した。僕らをここまで運んだのだから頂上には誰かいるはずだ。それだけを信じている。僕は手招きをして二人を誘った。彼らは手を振って拒んだ。僕は向き直って頂上へ歩き出した。
 
無意識な一歩。
不意なつまずき。
ときに目の覚める恐怖。
疲れと麻痺の悟りの一歩。
僕は頂上に辿り着いた。

 頂上に着いた僕はそれまでの道のりを忘れた。傷が自然に癒えるように忘れた。道のり自体が痛みだったかのようにきれいに、まるまると忘れてしまった。忘れてしまった僕は、それまでの僕ではないようだった。
 頂上は大きな部屋になっていた。天井が高くヨーロッパの教会みたくドームになっていて、柱があり、壁はなく、風が吹く。遠くに太陽が見える。太陽は黄色く、太陽の周りも黄色い。世界は青く、青い世界が太陽に打ち破られてそこだけ多少黄色く。
周りを見ればそこかしこに石柱がそびえていて、しかしその詳細は遠すぎて確かじゃないけれど、その姿は銅鐸の群れを思わせる。
こんなものがいくらあるの? 目を凝らしてみると十四まで数を数える事ができた。下を見ると、僕がいる塔よりずっと低いものもある。雲の波間に消えかかるもの
[1] [9] 最後 最初


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ