第九話 ベーネミュンデ侯爵夫人(その3)
[1/6]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
■ 帝国暦486年7月26日 オーディン ブラウンシュバイク公爵邸 アントン・フェルナー
応接室にはコルプト子爵とシュトライト准将がいた。コルプト子爵はソファーに座りシュトライト准将は部屋の片隅で控えている。我々が部屋に入ると二人が視線を向けてきた。
「お待たせしました、コルプト子爵」
エーリッヒは応接室に入ると既に部屋に案内されていたコルプト子爵は立ちあがって挨拶した。
「いえ、それほどではありません」
確かにそれほど待たせたわけではない。せいぜい五分程度のものだ。しかしコルプト子爵がどう思ったか……。成り上がりの新公爵が小癪にも自分を待たせるとは、そう思ったかもしれない。子爵の表情が少し硬く見えるのは気のせいでは無いだろう。
エーリッヒはコルプト子爵に席に座るように勧めると自らも席に着いた。俺とアンスバッハ准将はエーリッヒとコルプト子爵見える位置に立っている。エーリッヒに呼ばれたとき直ぐ対応するためというのが表向きの理由だが真の理由は万一の場合の護衛役だ
エーリッヒはリメス男爵家の血を引いてはいるが平民の出身だ。そしてブラウンシュバイク公爵家に迎え入れられるまでは貴族達とは敵対関係に有った。当然だが貴族達の中にはエーリッヒに対して蔑みと強い反感をもつ者が多いのだ。
しかし今のエーリッヒはブラウンシュバイク公爵であり皇孫の婚約者でもある。どんな貴族でもエーリッヒには敬意を払わなければならない。そこにジレンマが生じる。ジレンマが酷くなれば暴発する者も出てくるだろう。エーリッヒは士官学校で白兵戦技を学んでいるが決して強いとは言えない。俺達はエーリッヒの身の安全に常に注意しなければならない……。
大公が当主であった時はそんな事は無かった。我々は護衛にかこつけて愚鈍な貴族達への応対に四苦八苦する大公を見てその滑稽さに密かに笑ったものだ。そしてそんな我々を見て憮然とする大公を見てさらに笑うことが出来た。コーヒータイムの格好の笑い話だったんだが……。
「ブラウンシュバイク公、お話とは一体何でしょう」
コルプト子爵が幾分緊張気味に声を出した。何となく“ブラウンシュバイク公”といった声が引き攣って聞えたのは気のせいか? エーリッヒはにこやかに笑みを浮かべた。
「これを見ていただけますか」
エーリッヒがコルプト子爵に手紙を差し出した。例のグレーザーが書いたものだ。手紙を読んだコルプト子爵の顔が強張った。
「困ったものだとは思いませんか」
言葉とは裏腹にエーリッヒの口調にも表情にも笑みが有った。コルプト子爵はエーリッヒに無言で手紙を返した。
「皇帝の寵姫が寵を競うだけでなく相手に危害を加えようとしている。そしてそれを煽っている人が居る」
「……何を言っているのか、私には……」
「無駄で
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ