第九十四話 憂いが消えてその二
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紙コップのものもある、それを見てだった。
豊香は聡美にだ、再び問うた。
「それで何を」
「そうね。ここは紅茶をね」
「それを飲まれますか」
「コーヒーでもいいけれど」
それでもだというのだ、今は。
「紅茶にしたいわ」
「ホットですか。アイスですか」
「ホットを。ミルクでね」
缶のそれ、ホットミルクティーを見ての言葉だった。
「それをお願いするわ」
「わかりました。では私も」
豊香もだというのだ。
「同じものにします」
「そうするのね」
「はい、それでなのですが」
豊香は聡美とのやり取りを終えてから智子に顔を向けた。見れば智子もまた自動販売機の方に顔を向けている。
「アテナお姉様は何を」
「貴女達と同じものでいいわ」
「ミルクティーですか」
「ええ、それをね」
飲みたいというのだ。
「ホットをね」
「わかりました、それでは」
「実は私も少しね」
ここでだ、智子は目元と口元にうっすらとだが苦笑いを浮かべてそのうえで聡美に話した。
「焦っているわ」
「そうなのですか」
「気持ちがね」
「私もです」
豊香もこう言う、聡美に対して。
「アポロンお兄様が来られると」
「炎の剣士も戦いから降りられるから」
「気持ちが逸ります」
それが焦りにまでなっているというのだ。
「どうしてもそうなりますね」
「そうね、どうしてもね」
「ですから空港のホームではなく」
座ることが出来て落ち着ける休憩室にいるのだ。三人が今いる部屋に。
「ここにいますし」
「そうね、それではね」
「温かいお茶を飲んで落ち着いて」
「そのうえでお兄様を待てばね」
「すぐにここに来られます」
間違いなくだ、そうなるというのだ。
「ではその間飲んで待っていましょう」
「そういうことね、三人で」
「はい」
豊香は聡美の言葉ににこりと応えてだった、そのうえで。
三人でだった、自動販売機の方に進み。
コインを出し合い豊香がボタンを押す。そうして自動販売機から出たその缶のホットミルクティーを受け取ってだった。
席に座り飲む、そのうえで。
智子は一口飲んでからだ、こう言うのだった。
「お茶はいいわね」
「そうですね、特に今の様に寒い時の温かいお茶は」
「絶品ですね」
「神話の頃はね」
智子は神話の頃の話もした。
「お茶なんてものはね」
「ギリシアにはなかったですね」
「そうしたものは」
「ネクタルやアンブロシアはあったけれど」
神々の食物や酒だ、そうしたものはあったがというのだ。
「お茶はなかったからね」
「だから今こうして味わえることはですね」
「喜ばしいことですね」
「神も味わえないものがあるわ」
そしてそれがなのだ。
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