第五十七話 全てが終わってその十二
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「そうして勉強してね」
「教科書を何度も読んで覚えて」
「そう、解いていけばね」
「それが一番成績があがるのね」
「教科書とか参考書は何度も買う必要はないのよ」
よく設備が学力を上げるというがそうではないというのだ、母は貧富の差が学歴に関わるということを否定していた。
「勉強ってのは繰り返しよ」
「音楽と一緒ね」
「そう、繰り返して勉強すればいいから」
「じゃあ私もなのね」
「一回で覚えられなくても」
それでもだというのだ。
「何度も読んで書いていると覚えるわよ」
「そういえばギターも」
琴乃は自分がプラネッツで使っている楽器のことをここで思い出して言った。
「何度も演奏しているとね」
「違うわよね」
「うん、最初は駄目でもね」
「何度もしているとでしょ」
「よくなったわ、バスケでもね」
「そういうことなのね」
「何でもなのよ」
勉強でも音楽でもバスケでもだというのだ。
「繰り返すといいから」
「難しく考える必要はないのね」
「少なくとも武道専門学校に行くよりずっと簡単だから」
学校の勉強はというのだ、尚武道専門学校とは戦前に京都にあったまさに武道の若き達人ばかりを厳選して育てる学校だった。全国の中学校から柔道剣道薙刀で二十人ずつ選んでいた。そこに漏れた生徒の為に出来たのが国士舘大学だ。
「海軍兵学校とかね」
「兵学校ね、あそこね」
「江田島のね。琴乃ちゃんも行った」
夏休みの合宿でだ。
「あそこは東大よりも難しかったからね」
「それで入学してもよね」
「過酷だったから」
入るだけでも難関だったが続けていくことも苦しかった、海軍兵学校とはそうした場所だったのである。だから地獄とも呼ばれていたのだ。
「あそこと比べたらね」
「八条大学はね」
「普通よね」
「武道専門学校なんて一学年二十人よ」
「それも武道の達人からよね」
「そう、二十人ずつよ」
その剣道柔道薙刀でだ。
「それと比べたらね」
「そうね。色々な学部も受けられるし」
「しかも入ってからは普通だから」
普通のキャンバス生活を送られるというのだ。
「普通に勉強してね」
「するのならね」
「そうしてね」
「じゃあこのティーセットを飲み終わったら」
それでだとだ、琴乃は母に笑顔で答えた。
「はじめるわ」
「お勉強かしら」
「それはじめるわ、それで音楽もね」
部活の方もだというのだ。
「再開するから」
「頑張ってね」
母は笑顔で琴乃の背中を押した、そして琴乃もその励ましを受けて再び動きだすのだった。
第五十七話 完
2013・11・7
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