暁 〜小説投稿サイト〜
偽りの涙
第一章
[1/3]

[1] 最後 [2]次話

第一章

                     偽りの涙 
 ローマ時代に書かれたアポロニウス伝という本がある。この本に一つ面白い話がある。これはギリシアの哲学者アポロニウスについて書かれたものであるがその彼の話の一つである。
 彼には一人の若く美しい弟子がいた。その名をユリシウスといい逞しい身体に豊かな黒髪を持っていた。身体だけでなく頭も優れたものを持っており師であるアポロニウスにも愛されていた。何時か彼に相応しい妻をと考えていたがそれより先に結婚の話が決まってしまったのであった。
「何じゃ、もう決まったのか」
「はい」
 そのユリシウスがにこやかに笑ってアポロニウスの自宅で彼に言うのであった。
「コリントに住む方でして」
「ほう、コリントにか」 
 ギリシアの大都市の一つだ。アテネやスパルタに匹敵する繁栄を見せていた街である。
「そこの方ですが」
「一体どういった御婦人か」
 アポロシウスは彼にそれを問うた。
「教えてくれぬか」
「未亡人の方でして」
「とすると年上じゃな」
「そうです」
 ユリシウスはこうも答えた。
「いけませんか」
「それは構うことはない」
 アポロシウスは相手の年齢には構わなかった。
「歳は関係ないのじゃ」
「左様ですか」
「大切なのはどういった相手かじゃ」
 アポロシウスが見るのはそこであった。
「どういった相手じゃ。それは」
「まず人としては素晴らしい方です」
 それを語るユリシウスの目は輝かんばかりであった。しかしアポロシウスはその目に輝きとは別のものも見た。まるで異形の者に魅せられているような妖しいものを含んでいたのだ。
「とてもお優しく美しく」
「美人であるのか」
「若くして御主人をなくされたそうですが」
 彼はこうも師に述べた。
「その方と」
「それ程素晴らしい方なのじゃな」
「そうです」
 うっとりとさえした声で師に語る。
「そのような方と結ばれるとは。私は幸せ者です」
「そうじゃな」
 アポロシウスは一旦は弟子の言葉に頷いた。しかしそこにはいぶかしむものを含んでいたが有頂天になっているユリシウスはそれに気付いていなかった。
「わしも嬉しいことじゃ。そなたの幸福はな」
「有り難うございます」
「そしてじゃ」
 ユリシウスはまた彼に問うた。
「式の時は呼んでくれるのかの」
「勿論です」
 彼は満面に笑顔を浮かべて師にまた答えた。
「是非共来て下さい、絶対に」
「その言葉受け取ったぞ」
 アポロシウスは真面目な顔でユリシウスに答えた。
「今な」
「はい、お待ちしています」
 ユリシウスはその満面の笑みのままアポロシウスに答えてきた。
「楽しみしていますので」
「しかし。いい話じゃな」
 アポロニウスはまずはこ
[1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ