第一章
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う弟子に対して言うのであった。
「祝福するぞ」
「有り難うございます」
「それが万全の相手であれば尚更じゃ」
「いえ、先生」
ユリニウスはここで師の言葉を笑って否定した。
「あの方は。この世のものとは思えない程の方でございます。ですから」
「安心していいのじゃな」
「御会いして欲しいのですよ」
彼の今の感情はできるだけ多くの人達に自分の愛する人を見てもらいたいという一種の自慢から来るものであった。それを抑えられなくなっていたのである。
「絶対にです」
「わかった。ではコリントじゃな」
「はい」
また笑顔で師の言葉に頷いてみせた。
「楽しみにしておりますので」
「わかった。それでは式の時にな」
「わかりました。それでは」
ここまで話してユリニウスはコリントに帰った。後に残るのはユリニウスだけである。しかし彼はどうにも浮かない顔をしているのであった。
「妙じゃな」
ユリニウスの顔を思い出して呟く。
「あの目の奥にあったのは」
既にそれを読み取っていたのだ。彼の目の奥にあった何かに操られているかのような光に。鈍い光であったので気付くのは難しかったが彼はそれに気付いていたのである。これは深い見識と知恵を持つ彼だからこそであった。他の者には気付くものではなかった。
「どちらにしろ。式の時じゃな」
そう思い直しここでは落ち着くことにしたのであった。
「では。今は」
動かないことにした。ただじっとしていた。しかし考えてはいた。その考えの下で今後どうするべきか考えていたのである。
程なくして式の日となった。彼はコリントに来た。すると城門のところで衛兵が彼に声をかけてきたのであった。見れば屈強な兵士であった。
「若し」
「何じゃ」
その兵士に顔を向けて応えた。
「わしに何か用か」
「アポロニウス様ですか」
彼はこうアポロニウスに名前を尋ねてきたのであった。
「見たところお姿が御聞きした通りなのですが」
「そうじゃ」
アポロニウスは穏やかな声で兵士に答えた。
「如何にもわしがアポロニウスじゃが」
「左様ですか。お待ちしておりました」
兵士は彼自身からその言葉を聞くとにこりと笑ってみせてきた。そのうえでまた言ってきた。
「どうぞ。こちらへ」
「こちらへということはじゃ」
アポロニウスは今の彼の言葉でおおよそのことがわかった。
「そなたはユリニウスから頼まれごとを受けていたのか」
「はい、そうです」
兵士はにこりと笑って彼に答えてきた。
「先生はコリントにはあまり来られていないですね」
「確かにな」
実はその通りである。彼はコリントとはあまり縁がない。前にこの街に来たのはもう何十年も前のことである。だから忘れてしまっていることもかなりあるのも事実である。
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