第百五十五話 加賀入りその三
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「とりわけ徹底していますね」
「織田の一銭斬り、ですな」
「それでしたな」
「上杉もです」
それは彼等もだというのだ。
「降魔の軍ですから」
「では織田信長のそのことは」
「よいことですね」
「殿から見ても」
「この世は複雑なものです」
謙信箱の言葉を瞑目と共に出した。
「織田信長は奸臣、されど」
「民を愛している」
「民の為の政をしていますか」
「そうです、しかしこの世は公方様あってのことです」
それ故にだというのだ。
「私は彼を降しましょう」
「ではまずは能登に」
「そうしましょうぞ」
上杉はまず能登に赴くことにした、しかしその出陣にもまだ幾らかの時がかかる状況だった、謙信は信長と剣を交えることを見ながらもそれがまだ先であることもわかっていた。
そして信玄もだ、甲斐において己の家臣である二十四将と幸村達に対して確かな声でこう言うのであった。
「焦るでない、今はな」
「はい、まだですな」
「国固めですな」
「駿河、そして上野じゃ」
手中に収めているその国々をだというのだ。
「まだ治める必要がある」
「では御館様」
弟であり懐刀である信繁が言って来た。
「今はまだ」
「うむ、公方様の文は受け取っているがな」
「織田家を攻めるのはまだですか」
「そうじゃ、そして攻める時はじゃ」
「はい、三河ですな」
信繁はこの国を挙げた、この国こそがなのだ。
「あの国を」
「そうじゃ、徳川じゃ」
家康、彼をだというのだ。
「攻めるぞ」
「岐阜は攻めませぬか」
嫡男であり跡継ぎである義信が問うてきた。
「美濃は」
「犬山の城は堅固じゃ」
だからだとだ、信玄は義信に返した。
「そして後ろに岐阜城がある」
「その城ですが」
「あの城はそうおいそれとは陥ちぬ」
だからだというのだ。
「それよりはじゃ」
「徳川をですか」
「織田は倒せずともまずは徳川を降し」
そしてだというのだ。
「その領地を手に入れ力を蓄えることもじゃ」
「考えておきますか」
「無論織田を倒せるに越したことはない」
信玄もそれを最善としている、しかしなのだ。
「じゃが欲は張るものではない」
「あまり、ですな」
「それは」
「そうじゃ、しかしじゃ」
それでもだというのだ。
「織田は九百二十万石、兵は二十二万じゃ」
「しかも一向宗を次々に降しておりますな」
「大乱を収めております」
「尾張の蛟龍、その強さはかなりじゃ」
信玄もだ、信長の強さを認めているのだ。それで普段以上に慎重にことを進めようとしているのである。それでなのだ。
信玄は今はだ、こう言うのだ。
「勝つことは難しいぞ」
「殿でもですか」
「如何に御館様ともいえど」
「わしに対することが出来
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