第百五十五話 加賀入りその二
[8]前話 [2]次話
「ですから」
「絶対に、ですね」
「彼等を許してはなりませんね」
「例え何があっても」
「甲斐の虎と尾張の蛟龍は」
「それに相模の獅子も」
「どの者達もわかっていないのです」
謙信は厳しい声で言うのだった。
「私が能登を攻めるのも」
「越中もでしたな」
「どの国も」
「公方様が私に収めることを命じられたからです」
だから謙信は今能登を攻めているのだ、義昭にしてみれば関東管領であり幕府に忠実な謙信が強くなるのはいいことなのだ。
それでだ、今もなのだ。
「ですから」
「織田信長もですね」
「やがては」
「攻めます」
絶対にだというのだ。
「能登の次は」
「では、ですね」
「その際も」
謙信は信長との戦のことも考えていた、彼にとっては信長は幕府への逆臣である。しかしそれでもだというのだ。
ここでだ、謙信は信長にこうも言うのだった。
「しかし尾張の蛟龍は」
「今度は一体」
「悪いものは感じません」
そうだというのだ。
「民を無闇に害しませんね」
「はい、そうですね」
「今の一向一揆もですね」
「村に帰ればそれでよしとしています」
「それでは」
「民を大事にしています」
このことはだ、謙信もわかっているのだ。
それ故にだ、信長についてこうも言うのだ。
「そのことはよくわかります」
「では、ですか」
「あの御仁は民を大事にしている」
「そうした意味ではですか」
「政も実にいいものです」
謙信もだというのだ。
「それを見ますと非常に良き者です」
「民にとっては、ですか」
「あの御仁は」
「非常にです」
このことは実は信玄や氏康についてもだ。彼等の民を大事にする姿勢は見ているのでそのことについて悪くは思っていないのだ。
だからだ、今は微妙な顔で言うのだった。
「公方様をないがしろには出来ません」
「しかし民もですね」
「彼等も」
「私の剣は義、そして民を護る為のものです」
この自負もだ、謙信は強く持っているのだ。
「その為私もまた民を害することは許していません」
「そうです、上杉の軍は降魔の軍です」
「民の為にある軍です」
家臣達も言う。96
「ですからそれは」
「絶対に」
「その通りです」
謙信も彼等のその言葉に頷いて答える。
「奪うことも襲うこともです」
「若し行えば死罪」
「一銭でも盗めば」
「彼もそうしています」
信長もだというのだ。
[8]前話 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ