第二章
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った。
「それを言うたら」
「二人だけやろが」
だが修治はそう言って妻を抑えた。
「だからええやろ?」
「そやったらええけど」
「アメリカはな、負けた相手には容赦ない」
そう妻に告げた。
「何が何で悪党にしよるんや、相手を」
「そうなんか」
「ああ。だからこれからうんと酷いことになるで」
酒がまずくなっていた。それは決して元々まずい酒だからではない。修治が丹精込めて造った自信作だ。それがまずく感じられるのは心のせいであった。
「死んだ人も。これから死ぬ人も」
「難儀なことになんねんな、ホンマに」
「ああ。長い間な」
そんな話をしていた。修治も恒子も沈んだ心になってしまっていた。それは修一も同じで毎日行く場所が決まってしまっていた。そこはお墓だった。
一人でそこに行く。そこには彼の家族のお墓がある。毎日一人でそこに参って寂しく泣くのだ。それは誰にも言えない。だがそれでも行っていた。
修一も修治夫婦も沈んだ日々を送っていた。そうして八月になった。今度は広島と長崎に新型爆弾が落ちたとの話が伝わった。
「また。ようさんの人が亡くなったそうや」
「またかいな」
「ああ。たった一発の爆弾やったらしいけれどな」
修治は軒先で恒子、修一と一緒に西瓜を食べていた。やはりいつもは甘い西瓜もすこぶる味がしない。まるで変な胡瓜を食べている気持ちになっていた。
「それで何十万もや」
「武器を持たん人がか」
「そや。またな」
修治は辛い声で述べる。
「ようさん死んだわ」
「このままずっと死んでくんかいな」
「かもな」
修治は女房の言葉に暗く沈んだ声で応えた。夏の暑い盛りだというのに全く暑くはならない言葉だった。まるで冬の蔵の中のようだった。
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