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戦争を知る世代
第十一話 想う
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横を見る。
何となくぼやっと見えるシルエット。
・・・見覚えのあるシルエットだ。


つい先程のことを思い出す。


イナリが あさのは隊長に食って掛かっていった。
「楽観的ですね。相手は岩隠れ、土遁を得意とする忍ですよ。」


・・・びっくりした。
本当にびっくりした。

普段の イナリは仔犬みたいに愛くるしい笑顔でニコニコしていて、とても優しい。
たまに、いらないこと言うけど・・・

でも、苦しいこと、辛いことがあっても顔に出さない。
お父さん、お母さんを亡くしたショックで塞ぎ込んでいたところを回復?したあと、それ以降は一度たりとも辛そうな、苦しそうな顔を見たことがない。


それなのに、イナリはとても苦しそうな顔をして、隊長に食って掛かっていた。
私はそれが気になって、つい イナリに声を掛けて、肩に手を伸ばしたの。でも、彼は、大丈夫だよと言って笑いながら私の手をどけた。

その笑顔は・・・いつもの イナリじゃなかった。




どうして?

どうして、そんなに苦しそうなの?


そんな疑問が私の心の中で渦巻いていた。

でも、その答えはすぐに分かった。




「確かに・・・僕は怖いですよ。初めての戦場だし、自分の力に自信だってありません。でも、大切な人を失いたくないから、必死に考えているんです! とても・・・隊長のように楽観的にはなれません。」



彼は隊長のある問いかけに、こう答えた。



“大切な人を失いたくないから、必死に考えているんです!”

きっと、この部分だ。
これが彼を突き動かす気持ち。


“大切な人を失いたくない”

彼は“大切な人を失う辛さ”を知っている。

ううん、それだけじゃない。彼は恐らく・・・“一番”大切な人を失う気持ちを知っている。


その気持ちはきっと、今の戦争の時代でも、全ての人が経験するものじゃない。

本当にその人だけを必要としていて、自分の世界を構成しているパズルのピースのような“大切な人”、その人が自分を造っている人、自分そのものと言える人、それを失う気持ちなんてごく一部の人しか分からないんだと思う。



彼はそれを知ってるんだ、たぶん。




だから、より確実な方法をって食って掛かったんだよね。
でも、結局は あさのは隊長の作戦になった。

イナリはずっと暗い顔をしている。
緊張して、不安で、何かに怯えるような。

でも、私達の視線に気づくと彼は、いつものように笑おうとする。

それはとても痛々しくて、見ていられない。


私は、ここに来る前は戦争に出ることに不安でいっぱいだった。死ぬかも知れない、怖い。そんな思いだった。


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