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皇太子殿下はご機嫌ななめ
第54話 「ラインハルトもご機嫌ななめ」
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「貴族の中でも好き勝手に振舞っている者もいるようですが?」

 ふいにある女性の顔が浮かんだ。女傑と呼ばれる女性だ。黒い髪と黒い瞳、象牙色の肌の歴然たる美人とのもっぱらの噂だった。

「ヴェストパーレ男爵の娘か」
「え、ええ。そうです」

 そう言うと公爵は皮肉げに笑った。

「あれはな、見世物よ。珍獣の一種だ」
「見世物? 珍獣?」
「そうだ。あれが本当に噂の如き女傑であったなら、ヴェストパーレ男爵家は宮廷で確固たる地位を占めておるはずだ。地位もなく権威もない。そんな相手を持ち上げておるのは相手が無害だからだ。あれのサロンに足を運ぶ者の中で、本気であれに惚れている貴族などおるまい」
「そうなのですか?」
「そういうものだ。あれを見本にするより、ヨハン・フォン・クロプシュトックを手本とした方が良い。あやつは帝国における教育改革を主導しておる。そして大勢を巻き込む力がある」

 なぜだろう。ブラウンシュヴァイク公の言葉に傲慢さは感じられない。
 それどころか切実さすら篭っているようにも思える。

「しかしな」

 公爵が顔を上げ、俺を見つめてくる。
 酔っているとは思えないほど、真剣な眼差しだ。
 思わず姿勢を正したくなるほどだった。

「そなたはヨハン・フォン・クロプシュトックになってはいかん。教育問題のみを主導すれば良いというものではないぞ。帝国すべてを見通さねばならぬのだ。全てをだ。そなたの両肩に帝国が圧し掛かると思うのだ」
「そ、それは……」

 そう言うのが精一杯だった。
 帝国を背負う。その重みがいきなり両肩に圧し掛かってきたような気がした。あまりの重みに呻きたくなる。それでも毅然と顔を上げ、公爵と相対する。

「そうだ。それでいい。そなたにはそれができる。できると思うからこそ言うのだ」

 冗談事ではなく、帝国宰相になるつもりで精進せよと言いきられてしまった。
 いずれは皇帝にエルウィン・ヨーゼフ殿下。帝国宰相はマクシミリアン殿下。国務尚書に俺、そして内務にはキルヒアイス。この四人で帝国を動かす事になる。
 帝国を動かしていかねばならぬと公爵が言う。
 そうか、そうだったのか。俺をブラウンシュヴァイク家に連れてきたのは、自由惑星同盟に向かうための準備だけでなくて、この為でもあったのかっ!!
 これにはおそらく皇太子の意向もあるのだろう。
 それに以前、皇帝陛下に言われた事も思い出してしまった。
 ルードヴィヒの後を継げ、か……。
 いつの間にか、帝国の中心に据えられてしまったのだな。
 できるのか俺に? いやそうじゃない。やる。そうだ。やるしかない。
 愚痴など言っている暇はない。何のかんの言ってもあの皇太子は、問題から逃げずに立ち向かっているじゃないか、やつ
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