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皇太子殿下はご機嫌ななめ
第54話 「ラインハルトもご機嫌ななめ」
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「少しお聞きしたい事があります」
「言ってみるが良い」

 公爵の前に座った。
 宮廷闘争というものを公爵はどう考えていたのだろうか?
 門閥貴族の雄としか知らなかったが、昨今のブラウンシュヴァイク家やリッテンハイム家は、帝国改革の旗手として活き活きと活躍している。今となってはそれが妙に気に掛かる。

「それはな、今までは宮廷での位置が、そのまま帝国内での立場であったのだ」
「そうなのですか?」

 宮廷での位置か、そのような事考えた事も無かった。

「私は帝国軍上級大将だ。戦場に出た事はない。しかし上級大将だ。宮廷序列がそのまま軍の位にすら当てはまった。とすれば貴族ならば誰しもが、序列を上げる事を目指すであろう。ブラウンシュヴァイク家も同じであった」

 確かに宮廷序列が軍のみならず、全ての地位に直結するなら、まずは宮廷序列を上げる事を目指す。不思議ではないな。

「そして今までの帝国には確固たる中心がなかった。忠誠心の対象となるべきお方が不在であったのだ」
「それは……」
「なにを驚いておる。現皇帝陛下は灰色の皇帝と呼ばれていた。特に何をしたという訳はない。そういうお方だ」
「それは不敬と取られるかもしれませんが」
「ふむ。確かにそうであろう。しかし誰しもが内心ではそう思っておる。そんなお方に忠誠を誓えるか? 帝国自体に忠誠を誓えても、皇帝陛下には忠誠を誓えぬのだ。行き場のない思いが自家の繁栄を求めた」

 ブラウンシュヴァイク公はブランデーグラスを見つめている。
 不思議だ。俺がこんな話を公爵と話す事になるとは思ってもいなかった。

「言うなれば、行き場のない思いが自分の家に向かったのだな。自家の繁栄こそが自らの忠誠心の証。家に対する忠誠心の現れだと。だがそこに……」
「皇太子殿下が登場した」
「そうだ。ルードヴィヒ皇太子殿下が立たれた。帝国貴族の約半数は歓喜したぞ。自分たちが長年望んだ忠誠心の対象が現れたのだ。ラインハルトは知らぬであろうが、帝国改革がこれほどまでに進んでいるのは、皇太子殿下が主導しておるからだ。望み続けていた君主のお言葉だからだ」

 中心の不在。そして登場。自家の繁栄を望む思いがそのまま改革へと向かっている。

「人間というものは不思議なものでな。自己中心だけでは生きていけぬのだ。心の拠り所というか、自己投影できる対象を欲する部分もある。それは理想であったり、誰かであったりと様々だが、やはり一人では生きていけぬという事か」

 そうかもしれない。俺だってキルヒアイスやあんな風になっても姉がいなければ、おかしくなってしまうだろう。

「宮廷闘争も同じよ。敵がいる。相手も同じような思いを持っておる。敵同士であると共に戦友でもあるのだ。なによりも心強いであろう
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