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皇太子殿下はご機嫌ななめ
第54話 「ラインハルトもご機嫌ななめ」
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 帝国改革とは、貴族の思惑をいかに自らの望む方向に動かすのか、だ。単純に潰して終わりにはできない。

「それを皇太子殿下も解っておられる」

 少なくとも平民の教育問題が解決せねば、代わりがおらぬとさえ言っていた。
 代わりか……貴族並みに教育水準の高い者。
 フェザーンか、もしくは同盟の者か、どちらにしても帝国を好き勝手にされてしまうだろう。
 それならまだ貴族の方がマシというものだ。迂遠な話だが、必要な事なのだろう。
 そうしてお茶会などというものを屋敷の片隅で行っている。
 俺の前にはブラウンシュヴァイク公。左隣にはアマーリエ侯爵夫人、右隣にエリザベートが座っている。
 皆、上品に振舞っていた。俺より年下のエリザベートすら上品に見える。
 こうして見ると幼年学校で、貴族の子弟に貴族とは名ばかりの貧乏貴族と馬鹿にされていた理由が解る。動きや食べ方など下品に見えていたのだろう。品性はともかく、食べ方などは目立つ部分だ。
 なるほどこういった形式が重要視されるのだな。
 そしていつしか形式が完璧にこなせる事が貴族の嗜みになっていった。
 個人の能力ではなく、形式をうまくこなせる者が上に行く。
 貴族の弊害というものだ。形式もうまくできないくせになどという貴族たちの反感を買うな。人間の感情というものは中々複雑なものだ。どんな良い事でもあいつが提案するなら、反対する。その結果、今より悪くなってもかまわない。笛吹けど誰も踊らずか。
 そういう感情を人は持つ。持っているものだ。
 その点をあの皇太子はうまくやっている。完璧にこなせる、誰よりも、その上で否定するか……。
 なんでもかんでも壊せば良いというものではない。壊した後のことも考えろ。
 そうブラウンシュヴァイク公は教えてくれているのだろう。

 お茶会の後、俺はブラウンシュヴァイク公の書斎に連れてこられた。広い部屋の壁に沿って設置された書棚。それを歩きながら見ていく。
 書棚には代々集めてきた書籍が収められていた。
 中には禁書とされたものさえある。

「良いか、ここには政治経済に関するものが多くある。かつて統一された地球時代のものさえ、な」

 よく読んで学べと言われた。
 五百年前と同じようにこれから銀河は統一される。その時に必要になるのは、かつてと同じ統一された国を運営していくための知識。
 誰も体験した事のない未来。統一国家の在り様を過去に遡って見つけなければならぬ。
 手がかりを見出せ、と言ってくる。

「ここからですか?」
「ここからだ。おそらく皇太子殿下もノイエ・サンスーシの図書から学ばれたはず。学ぶのだ」
「はい」

 天井まで届く書棚を見上げながら返事を返す。
 知識を身につける。身につけなければならない。統一された国
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