ヘルヘイム編
第18話 7分の6の現実 A
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光実は顔を上げた。地下シェルターに避難してきた市民の中から、舞を呼んだらしい声が上がったのだ。
「あ〜、やっと抜けた〜」
「舞ねーさん、おひさ」
「あ! あなたたち、リトルスターマインの」
碧沙と咲を筆頭に4人の子供が、人の群れを潜り抜けて光実たちの前に現れた。
「みんなもフリーステージの下見に来たの?」
「はい。光兄さんから聞いて。でもちがったみたい。光兄さんのせいだからねっ」
「ごめんごめん。聞き間違えたみたい」
何でもないように碧沙の演技に乗る。こういう時、状況判断力の高い妹には救われる。
「でもちょうどよかった。兄さん、ナッツたちのこと、おねがいしてもいい?」
引っかかりを覚える。碧沙は「ナッツたち」と言った。ニュアンスからしてその中に碧沙、それに咲は含まれていない。
屈んで目線を合わせ、どういうことかと問い直す。
「わたしと咲は、今から上にもどるから」
光実は目を瞠って凍りついた。
突然の様子に舞たちが首を傾げているのにも構わず、光実は碧沙と咲の細い手首を掴んで隅へと連行した。
「どういうつもり? 地上にいたらスカラーシステムに巻き込まれるんだよ」
光実は片手ずつ、碧沙と咲の肩を掴んだ。
「知ってる。だから行くの。ね?」
「うん」
咲はしれっと肯いた。この子ならもしかしたら自分と同じかもしれない、と少しでも感じた自分を光実は殴りに行きたかった。だが今は無関係なのでぐっと堪える。
「試せるだけ試したいの。貴兄さんが――」
碧沙は胸の前で両手の指を絡め、小首を傾げた。
「わたしがいる地上を、貴兄さんが吹き飛ばせるのか、ね」
愕然とし、妹の真意を理解した。この妹は、貴虎が沢芽市を焼き払うのやめさせるため、自らの命を抑止力にしようとしているのだ。
「馬鹿、な――」
「ばかなことでもいい。わたしの街だもの。守るためにできることをするのはおかしい?」
「碧沙、それは『できること』じゃない。ただの希望的観測だ! 兄さんは人類の存亡に関わるポジションにいるんだよ。この街なんて将来的な犠牲の3万分の1でしかない。兄さんがためらうはずがないよ」
「そうかもね。でも、やめない。咲も付いててくれるし」
少女たちは笑い合い、可愛らしく「ね〜」などと声を重ねた。
「どうしてだよ、碧沙……死ぬ、かもしれないのに」
死ぬのは怖い。光実とて、切れ者だろうがただの男子高校生だ。舞が死ぬのと同じくらい、自身の死が怖い。
それなのにこの妹は、少女たちは、自ら死地に赴くと言う。
「だって沢芽は、わたしたち兄妹が生まれて育った街で、咲たちと出会えた場所だもん。こんなことで無くなっちゃうな
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